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第一話 部下の髪を気にかける男
「鷺沼おまえ、ちゃんと風呂上がりにドライヤーで髪乾かしてるか?」
嫌な上司だなあと鷺沼海遊は思った。……そんなの。
(分かっていても……触れないのが当たり前ではないのか?)
それも、会社の廊下ですれ違いざまに言うことかと。誰に聞かれるかも分からない場所で。
自分の髪質は自覚している。髪が多くてボリュームがあってひとまずそのままだと爆発するので強引にヘアゴムで後ろでひとつにひっ詰めてまとめている。風呂上がりの自分を見るのは大嫌いだ。鏡のなかの自分を見るのも。眼鏡越しの上司の黒曜石を思わせる深い瞳を見つめて海遊は思った。こんなサラツヤの美しい黒髪を持つ美男子になにを言っても通じるものか。
髪の毛のことで小さい頃から、特に男子からからかわれ。せっかく、海で遊ぶ、なんて名前を親から授かったというのに。あだ名はボンバーシー。思春期の女の子には酷なあだ名だ。しかもどっかのテーマパークを思わせるネーミング。
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