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痛い所を突かれた。先輩社員として、社会人としてふさわしいふるまいを、散々教育してきたのは自分だ。海遊は顔をしかめる。「大人には色々あるのよ。避けられるのにはそれなりのことをしたっていう事情とか……とにかく、察しなさいよっ」
小さく海遊が叫ぶと神尾は、憮然とした表情で、セクハラすか? とかたちのよい眉を歪める。最近の若い子は、男の子でも、眉をケアするのが普通なのか。「なら訴えないと。鷺沼さん、ガチで、ほっぽっとくなんてなにしてんすか。鷺沼さんが言えないんだったらおれ――」
「いい。いいから」いまにも糸原に文句をつけてきそうな神尾の服の裾を引っ張った。初日はリクルートスーツで来たのが懐かしい。いまは、普通に、ロックなロンTを着こなしている。後ろにBLACK PINKと描かれたど派手なのを。「単に……、髪の毛のこと突っ込まれてわたしが意地になってるってだけ。別に、糸原さんに悪意はない……」言いながら自信がなくなってきた。果たして、糸原の発言に、本当に、悪意は込められていなかったのか? それはもはや、糸原本人にしか分かるまい。
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