第一話 部下の髪を気にかける男

4/10
前へ
/90ページ
次へ
 はあ、と大きく神尾が息をした。頼もしい……と感じるのはこんな瞬間だ。「ビジュアルを悪く言われるのって立派なパワハラです。よし。鷺沼さんが言えないんだったらおれが――」 「だーからもう」もはや、海遊は立ち上がり、神尾の行く手を塞いだ。手を広げ、「神尾くんが下手なことをするとかえってわたしが傷つくの。……もう。触れないで」  言い過ぎたか。と、神尾の、殊勝な表情を見ていて思う。飼い主に邪険にされた……ワンコみたいだ。  わん、とこころのなかで海遊は言いかけたがいいや、と戒め、言い過ぎたねごめん、と頭を下げた。 「とにかく。……これはわたしと彼の問題で。別に、仕事に支障をきたしているわけでもなんでもないから……わたしの気持ちの整理がつくまで、放っておいて」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

492人が本棚に入れています
本棚に追加