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花束を受け取った派遣さんは本気の涙を流しているのかもしれない。今夜の主役は間違いなく彼女だ。海外事業T《チーム》十三名からの巨大な花束を手に、何度も何度も店の前で頭を下げる。その姿を見る海遊の胸に様々な感情が爆ぜる。――祝福。羨望。そして妬み……。
海遊は今年、三十三歳になる。とっくに結婚ラッシュは過ぎたし、親もうるさく言わなくなった。それはそれで寂しいというか、見捨てられたような気持ちになる。もはや、わたしには、結婚を心配する価値すらないのかと。――妹は。
田舎で実家の近くに暮らし、三人の子どもを育てている。そんな妹に比べ、自分は――欠陥品なのかと、ふと考えることがある。長女なのに、田舎を捨てて、両親を妹に任せて、別に、絶対に自分でなければ出来ない仕事――をこなしているわけでもない自分が、いつまでも、東京という土地に。仕事に、しがみついて。
彼氏がいなかったわけではなかった。……が、彼には裏切られ、以降、男性に対する期待心を捨てた。期待するほうが馬鹿なのだろう。元彼氏は、髪がサラツヤストレートの、若い女と浮気をした。……自分とは結婚寸前まで行ったのに。
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