あや

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翌週末、釣り好きな人と話を合わせるために昔見様見真似で購入したルアーセットを自家用車に積むと、僕の実家であるS県に出発した。 片道3時間、高速道路の小さな一人旅。 一週間前の台風と大雨で一時は通行止めになったと聞いているが、今日は快晴。 車の運行もスムーズだ。 運転席の窓から見える風景を軽く眺めつつ、アクセルを踏み込む。 商社であろうビル群が消え、続いての海が消える頃、目的地のインター付近。 高速を降り、県道をいくつか乗り換えた。 片側一車線の道幅が段々と狭くなる。 辺りはのどかな田園と森林ばかりだ。 さらに車を走らせる。 案内標識が〇〇峡温泉と読み取れる頃には渓谷の眺め。 広く激しい川を跨る陸橋を渡る。 山あいに、お土産物屋だろう茶店がちらほらと立っている。 この辺りだろうか。 そのうちの一軒、釣り人がかぶる竹笠(時代劇に出てくる様な三角錐のあれだ)が軒先にいくつか掛かっている。 店前の舗装されていない駐車場に停めた。 「ごめんください」 「はーい」 奥から薄手ぬぐいをほっかむりにした、小柄なおばさんが出てくる。 「鮎釣りに来たのですが…あの、遊漁承認証を」 おばさんは困った顔をした。
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