あや

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「ゆうぎょ…?ああ、釣り券のことかね。解禁日は過ぎたんだけど、悪いやあ、こないだの大水で川が濁っちまってねえ。肝心のあゆ、さ居らんだよ。はあ、T京からはるばる来たんかね。生まれ、こっち?もーっとたーんとお街の方?うちっちの県も横にばーっか広いでねぇ…」 話好きなのだろう、おばさんの話で分かったのは、息子が海外に単身赴任な事、七人兄妹の末っ子であること、嫁が通販し過ぎる事。 あとはこの時期しか獲れない格別の鮎が手に入らない事だった。 せっかくの特別な日 その前の日は特別な食事を振る舞うのが僕のルールだ。 残念な気持ちで車に乗り込んだ。 コンコン 運転席の窓ガラスがノックされた。 「…ちょっと、いいかい?」 紫色のスポーツキャップを目深にして、やけに健康的に光る歯を見せながら、その男は話しかけてきた。 口元は笑っているが、目は影になって見えなかった。
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