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「支流の小さい川なんだがね。上流の赤い土が時折混じるんだよ。海で言う赤潮って言うのかな、プランクトンがたくさんいる水みたいになるんだよね。おっ足元、気をつけて…」
男の背中でアウトドア用のバックパックが揺れている。
僕は件の男の案内で、石だらけの河原を歩いていた。
すぐ脇の河川は黒いうねりと共に、ごうごうと水が流れていく。
「…アカムシとかミミズが混じるんだろうね。それを求めて集まるんだ。味といったら絶品なんてもんじゃないよ。ほら、俺なんかはもうそれしか食えないっていうか…」
この辺りの住人は皆こんなに、お喋り好きなんだろうか。
地元の『しゃんべえ』という方言を思い出す。
一杯飲みたいな…酒も無しで付き合うのは甚だキツい。
赤ワインがいいな、ジュベレー・シャンベルタンとか。
他愛もない妄想をするうちに、随分上流に来てしまった様だ。
西の陽が傾き始めている。
先刻までセイタカアワダチソウの黄色しか無かった河原は、いつのまにか赤ワイン色の彼岸花の咲き乱れるそれだ。
「…ってな。言ってやったさ、そりゃ訛りで、ゆ、の発音がや、に変わったんだって…」
ひた、と男は歩みを止める。
子供が飛び越えられる程度の小川を指すと声のトーンを落として言った。
「あや、の漁獲場だ」
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