あや

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「ごめんな、兄ちゃん。鮎の変異種なんて嘘だ。赤潮の川も嘘。禁漁区のこの日この時間、この川は少しだけ地獄の川が混じるんだ」 さあ、と風が吹き周囲の彼岸花が頷くように揺れた。 「不思議なことに、自分が殺した女が魚になって帰ってくるんだ。俺は供養も兼ねて女を喰う。翌年にはまた帰ってくる。何でかは分からんがね。地獄の罪人が何度も蘇っちまうのと同じ仕組みかもな」 僕は声も出ずに固まっている。 「何だい、お前のほうが罪人なのにって顔してるな。違いねえ。もちろん地獄に落ちてるぜ。こうして何百年も女房しか喰えない。一途な地獄だよな」 赤い河の上流から、ばしゃばしゃという音が聞こえる。 男は目を向けると 「兄ちゃんを連れてきたのは、これが目的さ。一目で同じ穴のムジナだって分かったよ。おかげで今年は大漁だ。喰いきれない分は俺がもらうぜ。いいだろ?」 川の流れに合わせて、何十もの女の顔が、ぷかぷかと浮きつ沈みつしている。 見知った顔がある。知らぬ顔もある。 …あれは 母さんの顔だ。 タケシ 母の顔が僕の名を呼ぶ 続けて アイシテル と確かに言った 目眩がして僕は意識を失った。
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