1人が本棚に入れています
本棚に追加
ホウ、ホウ、という声に気づいて目を覚ました。
フロントガラスごしの、あたりはすっかり日が落ちている。
夢?
「夢じゃないぜ」
車の運転席で飛び上がる。
隣の助手席には男がいた。
「ここまで連れてくるの大変だったぜ。ま、駄賃も貰ったからよしにしてやるよ。お前さんの取り分は、ほれ、後ろ」
親指で後部座席を指す。
深緑色の地味なクーラーボックス。
中から
タケシ
アイシテル
前の彼女の声がした。
「綾香…」
「へえ、アヤカって言うのか。変な符号だな。殺めた女の魚だから『アヤ』って呼ぶんだアレの事」
「…」
「お造り…ああ、刺し身にしといたぜ、尾頭付きで。おふくろさんは、あんまり身が無くってな。まあ、鮮度の良いほうがいいだろ」
男はドアを開くと助手席を降りた。
「また来年会おうや」
男は帽子を取って挨拶をする。
月明かりに光る魚の様な目だった。
そのまま闇に消えた。
最初のコメントを投稿しよう!