2019年10月

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2019年10月

 10月11日(金)  宇喜多の元を恩師の葛城(かつらぎ)教授が訪れ、誠が吸血鬼になっていることを告げるが、宇喜多は吸血鬼の存在を信じようとはしなかった。誠も「自分を病院から遠ざけろ」と訴えるが、宇喜多は聞き入れずに病室に戻してしまう。  その夜、小林は宇喜多の屋敷に忍び込み、恵梨香を襲い吸血する。その日以来、恵梨香は悪夢にうなされるようになり、葛城は彼女の婚約者、キロスと共に屋敷を訪れるが、そこに小林が見舞いに訪れる。恵梨香は小林の来訪を喜ぶが、小林の姿が鏡に映らないのを見た葛城は、小林こそが吸血鬼であると確信する。  10月12日 - 夕方頃、令和元年東日本台風(台風19号)が日本の伊豆半島に上陸、その後首都圏を直撃した。同年の9月9日に上陸した房総半島台風と比較すると約6倍の大きさの台風で、関東地方における雨量と風速について観測史上最高の記録を軒並み更新。大雨特別警報が静岡県,神奈川県,東京都,埼玉県,群馬県,山梨県,長野県,茨城県,栃木県,新潟県,福島県,宮城県,岩手県の13都県で発令された。また、長野県の千曲川では堤防が決壊し、その他の多数の河川でも氾濫が起き、多くの地域で大規模な浸水が発生。かつて経験したことのない災害が発生した。同時に、首都圏を中心とした約37万戸以上の大停電が発生した。  10月26日(土)  葛城は、小林を寄せ付けないために恵梨香の部屋を彼の嫌いな薔薇の花で埋め尽くすが、吸血鬼の血が入った恵梨香はそれを嫌がり、彼女の身を案じるキロスも葛城に反発する。     同日、格安航空会社(LCC)で日本国内2位のピーチ・アビエーションと同3位バニラ・エアが経営統合した。  中国海警局の4隻 (海警1301、海警1305、海警2501、海警14063) が尖閣諸島沖の領海を航行。  10月27日(日)  小林は再び宇喜多の屋敷に忍び込み、恵梨香を連れ去ってしまう。同じ頃、誠が精神病院から脱走して小林の元に向かい、葛城とキロスは彼を尾行する。これによって小林が隠れ家にしていたコテージまで2人が来てしまい、小林は誠を裏切ったと見なし斧で体をバラバラにして殺害するも、既に夜明けが近付いてきていたため恵梨香を連れて慌てて地下墓所の棺に逃げ込む。地下墓所を捜索するうちに2人は棺で眠る小林を発見する。葛城はそばにあった棒を折って小林の心臓にその尖った先端を刺して彼を殺し、キロスは恵梨香を取り戻す。  10月28日(月)  賀来邦彦(かくくにひこ)は夕凪市の東にある夕凪電工で働いていた。夕凪電工は産業用・医療用ガス、工業用薬品等の基礎化学品、電子材料向け高純度ガス等を生産している。  邦彦は誠の息子で、彼もまたハラスメントをするとヒットポイントが上がる性質だった。  邦彦はお菓子ハラスメントをしていた。  お菓子ハラスメントとは、特定の人にだけお菓子やお土産を配らず、不快な思いをさせてしまうことだ。 また、旅行に行ったときに会社へのお土産購入を強要することも、お菓子ハラスメントにあたる。  邦彦は医療ガス部の主任だったが、4月に入った毛塚光一(けづかこういち)が気に食わなかった。寝坊を繰り返し、電話しても出ないこともあった。 『新人教育がなっとらんぞ!!』  課長の佐野四郎(さのしろう)の怒鳴り声を歯を磨きながら思い出し、胃が痛み出しオェッとなった。佐野は50過ぎで、冬彦さんで有名な佐野史郎(さのしろう)ではなく、『結婚できない男』や『下町ロケット』の阿部寛(あべひろし)に似ている。  お菓子ハラスメントの標的は毛塚だった。  うまい棒をワザと毛塚にだけあげないのだ。  毛塚は泣きそうな顔をしていた。  毛塚は『海猿』や『チーム・バチスタ』の伊藤淳史(いとうあつし)に似ていた。大学卒業後、夕凪電工に入ったがマジで使えない。  お菓子ハラスメントをしたことにより、邦彦は風邪を引かない体質になった。    昼食は食堂で醤油ラーメンを食べた。母親の鈴子(すずこ)は『しょっぱいものばかり食べてると腎臓悪くするよ』とよく注意する。  腎臓を強くするためにヌードルハラスメントを敢行することにした。  ヌードルハラスメントは、麺類などをすする音によるハラスメントを意味する。  すする際の音がトイレの音みたいと毛塚は前に言っていた。食事中に音を出すことをマナー違反とする外国人はもちろん、日本人の中にもこの音を嫌う方は少なくない。  ズルズルズルズル🍜  毛塚は顔を顰めている。  ケータイが鳴った。鈴子からで父、誠の死体がモスクワの森の奥から見つかったことを聞かされた。  涙なんか出なかった。誠はあまり勉強のできなかった邦彦を虐待していた。車で連れられて夕凪山に置き去りにされたこともある。  佐野に事情を話して、早退することにした。  10月30日(水)  葬儀はモスクワで行われた。  モスクワは北緯55度45分、東経37度37分に位置する。市の中心をモスクワ川が蛇行しながら流れる。市域面積は2,511平方キロメートルに達する。植生的には北の針葉樹林帯と南の混合樹林帯との接点に位置する。土壌はポドゾルが主で、肥沃ではない。  2010年の調査によると定住人口の中ではロシア人91.65パーセント、ウクライナ人1.42パーセント、タタール人1.38パーセントの順となっているが、これらには移民や不法滞在者は含まれておらず、おもに中央アジアから100万人を超える移民が在住しているとされる。  10月の平均気温は5℃8。この日も寒かった。  モスクワには赤の広場、クレムリン、美術館劇場からモスクワ川クルーズ、サーカス、動物園まで、あらゆる世代の人々の観光ができる。  葬儀場はモスクワ川の近くにあった。  棺の中に納められた父の遺体を見た瞬間、邦彦の瞳から涙が溢れた。  遺体が焼かれるのを待ってるとき、セミョーンという中年の刑事が近づいてきて事情を話してくれた。セミョーンは日本語が堪能だった。  小林って快楽殺人者により誠は殺されたらしい。 「小林はどこにいるんですか?」  邦彦は尋ねた。 「葛城という教授に殺されました」  邦彦は気が狂いそうだった。発狂しながら葬儀場を飛び出した。  気がつくと山奥の洞窟に邦彦は来ていた。  全裸の女が立っていた。  母の鈴子は世界各地の怪談に詳しかった。  もしかしたらマフカかもしれない。  マフカは、ウクライナ神話における女性の精霊の一種。彼女は長髪の人物で、時には裸で、若い男性にとって危険かもしれない。  この用語で知られている霊は、不条理な悲劇的な死や早すぎる死を遂げた少女、特に名前のないの赤子の魂である。マフカはしばしば、若い男性を森の中に誘い込み、誘惑し、そこで彼らを「くすぐって」死に至らしめる美しい若い少女の形で現れる。マフカは水に反射せず、影がなく、「背中がない」ため、内部が見える(それらはよく「ニャフカ」(Nyavka)と呼ばれ、中央ウクライナよりも危険な山川がある西ウクライナに住んでいると信じられていたが、中央ウクライナに住んでいると信じられていたマフカは背中を持っていた)。いくつかの説明では、彼女らは牛の世話をしたり野生動物を追い出したりすることで農民を助けるとも言われている。  彼女らは、敷物で飾られた森、山の洞窟、または小屋に集団で住んでいると信じられていた。彼女らは盗んだ亜麻の糸で、服を作るために薄い透明な布を織った。また、髪につけた花が好きだった。春には山に花を植え、そこに若い男性をおびき出し、くすぐって殺した。ペンテコステ(ウクライナ語: На́вський Вели́кдень)では、彼女らはゲーム、ダンス、乱交を開催した。悪魔が笛やパイプを演奏して彼女らに同行した。  死んだ無名の赤子の魂を救うためには、ペンテコステの期間中にカーチフを投げ、名前を言って「私はあなたにバプテスマを授ける」と唱えなればならない。救済された魂はそれから天国に行く。魂が7年まで生きて、天国に行かなかった場合、赤子はマフカに変わり、人々を悩ませる。 「この花、キレイでしょ?」  マフカは向日葵の髪飾りをしていた。  邦彦には何を言っているか分からなかった。  マフカは巨乳で、邦彦の陰茎は屹立していた。  父親が死んだばかりなのに何て奴なんだ!と、邦彦は自責の念に駆られた。  洞窟には日本から邦彦に連れ添った仲間がいた。  人数は邦彦を含めて8人。  邦彦以外の7人は園田拓哉(そのだたくや)千葉月子(ちばつきこ)冨樫夏美(とがしなつみ)西原沼男(にしはらぬまお)猫田則夫(ねこたのりお)春野広美(はるのひろみ)古畑平太(ふるはたへいた)。7人とも亡くなった誠の教え子だ。  拓哉、月子、夏美の3人は邦彦と同じ37歳。沼男、則夫、広美、平太の4人は36歳だ。 「早くこんなところから出たい」  横浜のクリニックで小児科医をしている拓哉が言った。  フルートの音色が夕闇の洞窟に響く。  邦彦たちは洞窟から出ようとするが無数のコウモリが行く手を阻んでいた。 「この洞窟から出たかったらゲームに勝ちなさい。お題は『人狼ゲーム』です」  ロシア語が堪能な精神科医の月子が翻訳した。 「ゲームとかあんまりやらないから分からないや」  夏美が小声で言った。赤いフレームのメガネを掛けた小柄な女性なのでオタクっぽい。 「『汝は人狼なりや?』って知らない?」  整形外科医の沼男が言った。沼男はどことなくサッカー選手の内田篤人に似ていた。 『汝は人狼なりや?』はアメリカのゲームメーカーLooney Labs.より2001年に発売された、会話と推理を中心にしたパーティーゲームである。このゲームのルールは、ソ連のドミトリー・ダビドフが1986年に制作した『Мафия Mafia』が元になっているとされる。  人狼ゲームの『ミラーズホロウの人狼』は、2003年のドイツ年間ゲーム大賞でノミネートされた。日本においては『タブラの狼』のルールがもっとも普及しているといえる。  各プレイヤーはそれぞれが村人と村人に化けた人狼になり、自身の正体を隠し欺いたりしながら他のプレイヤーと交渉して相手の正体を探る。ゲームは半日単位で進行し、昼には全プレイヤーの投票により決まった人狼容疑者1名の処刑が、夜には人狼による村人への襲撃が行われる。これらによって死亡したプレイヤーは以後ゲームに参加できない。全ての人狼を処刑することができれば村人チームの勝ち、人狼グループは生き残った人狼同数まで村人を減らすことができれば人狼チームの勝ちとなる。  基本的なゲームの要素は、プレイヤーが秘密に割り振られた役職(村人、人狼、占い師など)を互いに推理し合うだけのシンプルなものである。しかし推理に必要な手がかりは一部の役職で断片的に知らされる他は、すべてをプレイヤー同士のやり取りから読み取らなければならない。よって、いかに相手を説得するか、あるいは巧妙に騙し続けるかの会話による駆け引きが重要な要素となる。また、プレイヤーが自分たちで考案した追加ルールや、多種多様なローカル役職が存在することも特色に挙げられる。  8人は、お互いを見通せるように円になって木の椅子に着席した。マフカがゲームマスター(以下GM)となり、司会進行を担当する。GMはあらかじめ決めておいても、役職を決定するときにランダムに決めてもよい。  GMは役職名が記載されたカードをランダムに配るなどして、お互いの正体がわからないように各プレイヤーに役職を割り振る。  8人全員がカードを受け取り終えた。  月子は魔法使いの描かれたカードを見てほくそ笑んだ。  邦彦は苦虫を潰したような顔になった。       マフカは脳内で人物相関図を作った。    村人チーム   邦彦 👨 無職者 宝箱の鍵を1つ。    拓哉  👮 警官 夜の間に人狼の1人を知ることが出来る。宝箱の鍵を3つ。無線を配備。    月子 🧙 魔法使い 昼に処刑された人を知ることが出来る。魔法石を手に入れると魔法を発動。  宝箱の鍵を3つ。    広美 💂ハンター   襲撃または処刑で死亡する際に、生存者1人を選んで道連れにできる(ルールによっては、誰も道連れにしないことも可能)。よく似た役職として、「猫又」や「わら人形」がある。  スナイパーライフルを最初から装備。宝箱の鍵を2つ。  人狼チーム  夏美 🐺人狼 人間に化けた狼であり、夜の間に人狼以外のプレイヤーの中から1人を指定して襲撃する。散弾銃と防弾チョッキ着用。宝箱の鍵を1つ。    沼男 😈悪魔。宝箱の鍵を3つ。  則夫 👺天狗(内通者)  悪魔の強化版であり、他の村人全員を把握できる。ただし、人狼からは天狗を把握できない。  宝箱の鍵を2つ  平太 👹鬼  人狼に襲撃されても死亡しないが、それ以外には無力。宝箱の鍵を2つ。日本刀を最初から装備。    邦彦ってガキは驚異にはならない。私の魔力は特別だ。  鬼の平太も大したことはない。   マフカは鼻で笑った。    コウモリはいつの間にか忽然と姿を消していた。邦彦たちが洞窟から出るとゴゴゴッと轟音がした。 「あぁっ!!」  スキンヘッドの皮膚科医、則夫が叫んだ。  崖崩れが起きて、街へ繋がる吊り橋も落ちた。   「クローズドサークルって奴ね」  遠藤久美子(えんどうくみこ)に似た眼科医の広美が言った。  クローズド・サークルとは、ミステリ用語としては、何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品を指す。  過去の代表例から、「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」「陸の孤島もの」「客船もの」「列車もの」などの様に分類されることもある。  クローズド・サークルは密室の一種とされることも多いが、密室と非密室の境界を問題とする不可能犯罪ではなく、ドラマを室内に限定する密室劇である。   「春野ってミステリー好きだったっけ?」と、耳鼻科医の平太。 「エラリークイーンの『シャム双生児の秘密』はおすすめよ」  自動車旅行中のクイーン警視と息子のエラリーは、アメリカ北部のとある山中で山火事に巻き込まれ、命からがら山頂の山荘に辿り着く。そこには外科医のザヴィヤー博士とその一家が住んでおり、クイーン親子は山火事で陸の孤島となったその山荘に泊めてもらうことになる。屋内で警視は巨大なカニのような生き物を目撃するが、その正体は分からないまま眠りにつく。  翌朝、博士が銃殺されているのが発見される。山荘の住人が集められた際、警視が目撃した「カニ」の正体が、博士の所に診察を受けに来たシャム双生児の兄弟であったことが明らかになる。  博士の死体は、破られたトランプのスペードの6を握っていた。警視は、そのカードは博士が残したダイイング・メッセージであり、ザヴィヤー夫人が犯人であることを示していると推理する。  しかしエラリーは、トランプに残っていた指の跡から、そのカードが博士ではなく犯人によって破られたことを見抜き、犯人は博士の弟のマークであると主張する。それに対してマークは、ザヴィヤー夫人を陥れるためカードを持たせたのは事実だが、その時点で既に博士は死んでいたと反論する。  その夜、マークは毒殺され、その手にはトランプのダイヤのJ(ジャック)が握られていた。今度は双生児が疑われ始めるが、そうこうしている間に山火事は山頂まで到達し、遂に山荘が燃え始める。なんとか地下室に逃げ込んだ一同を前に、エラリーは真相を語り始める。    一堂は古びた洋館に場所を移した。  食堂に入り、全員席についた。  黒い頭巾を被ったマフカの従者が料理を運んできた。  邦彦は毒でも入っていないか気になって仕方がなかった。  最初に運ばれてきたのがシチー。  シチーまたはシーは、代表的なロシア料理で、キャベツをベースとした野菜スープである。ロシア料理にはなくてはならない味であり、「実の父よりもシチーは飽きることがない」「善人はシチーから逃げない」などロシアの諺にも使われているほどである。  平太は疑う様子もなく、スプーンでシチーを啜ってうめーうめー言っていた。    安心した邦彦は料理に手をつけた。    次に運ばれてきたのはコトレータという鳥肉を用いたウクライナ・ロシア風のカツレツだ。コトレータはフランス語でカツレツを意味する「コトレット(フランス語: côtelette)」からの借用語であり、元々はフランス料理であった。なお、料理名としては複数形のコトレートィ(コトレーティ、ロシア語: котлеты、ラテン語: kotlety)が用いられる。  さらにピロシキが運ばれてきた。  ピロシキは、東欧料理の惣菜パンである。主にウクライナ、ベラルーシ、ロシアなどで好まれている。小麦粉を練った生地に色々な具材を包み、オーブンで焼くか油で揚げて作る。  ウクライナ・ベラルーシ・ロシアの三国では、ピロシキの大きさは幅6cmから13cmくらいである。生地は鶏卵とバターを使ったパン生地、折りパイ生地、練りパイ生地など色々である。焼くピロシキの方が揚げるピロシキよりも一般的である。具も多種多様で、畜肉(挽肉、レバー、脳など)、魚肉(サケ、チョウザメ、シロマスなど)、ゆで卵、フレッシュチーズ、米、カーシャ、ジャガイモ、茸、キャベツなどが用いられる。お茶のお菓子として、ジャムや果物を詰めた菓子パン風の甘いピロシキも作られる。間食として食べる他、コンソメやボルシチなど汁物に添えたり、朝と夜のお茶の時間に食べるのが一般的である。  その他「ピロシキ」と呼ばれる東欧料理に、片面だけを焼いたブリンチキで具を包み、パン粉をまぶしてバターで焼いたブリンチキのピロシキや、折りパイで作った円形の容器に具を詰めた、フランスのヴォロヴァンによく似たピロシキがある。どちらも肉、レバー、脳などで作った具を詰めることが多い。 「ピロシキは東欧伝統的な家庭料理であると同時に、ロシア皇帝ピョートル1世の時代から街中で売られている一般的な食べ物だったんだ」  拓哉は世界各国の食べ物に関して詳しい。 「そうなんだ〜」  広美は漸くシチーを飲み終えた。  拓哉は広美に気がある。  邦彦は振り子時計を見た。もうじきで19時になるところだ。  マフカが口火を切った。 「皆さんにはこれから順番に村の何処かに隠れてもらいます。1人に与えられる持ち時間は30分です。村人の皆さんは明日の午前6時まで攻撃は禁止です。午前6時から午後6時までは攻撃が可能になりますから、この間に人狼を見つけ出して殺害してください。人狼グループは明日の午前6時まで村人の誰かを殺害してください。また、ルール違反をしたメンバーにはそれ相応の罰を受けてもらいます」  ビハインドの順番は広美、沼男、月子、夏美、則夫、平太、邦彦、拓哉の順番だ。 「質問いいかしら?」と、月子。 「どうぞ」 「夜間の間、村人が人狼を攻撃したらいけないのは分かったけど。反撃するのはどうなの?」 「反撃なら許すわ」  ってことは月子は村人なのか? 邦彦は月子に警戒心を抱かなくなった。 「また、村のどこかに宝箱が隠されており、箱の中には様々な武器が入っています。死にたくなかったら武器を手に入れることです。タイムリミットは11月2日の午後6時までとなります」  則夫が挙手した。 「どうぞ?」と、マフカ。 「このゲームに勝ったら報酬は何がもらえるんだ?」  それは邦彦も気になっていたことだ。 「永遠の命だ」  つまり、死ぬことがなくなる。どんなことにもチャレンジ出来そうだ。  振り子時計がボーン、ボーンと7回鳴った。  広美が洋館を出た。  広美が手にしてるカードはハンターだ。洋館の地下にある武器庫で、スナイパーライフルと鍵を2つ手に入れた。  広美は暗闇のモスクワ川を眺めた。  モスクワ川は、ロシア西部を流れる川で、スモレンスク州とモスクワ州を流れ、蛇行しながらロシアの首都モスクワを貫流する。ヴォルガ川水系に属するオカ川の支流で、水はカスピ海へと流れる。川の延長は503km、流域面積は17,600平方kmにおよぶ。  毎年11月から12月にかけて凍り、3月終わりごろから溶けはじめる。主な支流にルザ川、イストラ川、ヤウザ川、パクラ川、セヴェルカ川などがある。モスクワ運河により、モスクワ川と北方のヴォルガ川の間が結ばれている。  村には人の気配はなく、灯りも点いていなかった。 「ゴーストタウン……」  広美は呟いた。  集落の存在理由が特定の産業に依存している場合においては、その産業が持続的なものではなく、衰退した場合には集落の存在意味を失うことになる。その意味において生活の伝統も基盤もない地域に人工的につくられた集落が自然消滅するというのは、ゴーストタウン発生の典型例として認められている。  20年前に起きた地震によって、高層アパートなどが倒壊する大きな被害を受け、住民約3,200名のうち3分の2の犠牲者を出した。壊滅状態となった町は再建されなかった。  コンクリート製アーチ橋に差し掛かった。錆びれており崩落しないか心配だった。ゆっくりと橋を渡った。風が吹くとガタガタ揺れた。背筋が凍りそうになった。  橋を渡り終えると鬱蒼とした原生林が広がっていた。オオオッ!!と、獣の咆哮が聞こえた。  熊!?狼!?  広美の体は強張った。    広美は古びた線路を歩いていた。かつてはトロッコが走っていたようだ。🛤  主に、鉱山・工場・店などで自動車のトラックが利用できない場合や、隧道・ダム等の大規模工事現場で道路を建設するより早く簡単な場合、ないしは、土木工事の現場において大量の土砂を搬出するため、トラックを使用して運搬するよりも速く移送できる場合などに、梯子状に組みあがった線路(軌匡)による仮設軌道を設置して、その上を運行するものが多いが、本格的な路盤に線路を敷設する場合もある。  ペダルをこいで進む保線用の軌道自転車のことを指すこともある。  走行させる車両は簡易貨車であることが多いが、鉱山などで動力車を持ち込めない場合には、ウインチによる牽引や人力の手押し車が使われることもある。  🔑広美は宝箱を見つけた。鍵穴に鍵を差し込んで回した。ガチャリ……宝箱が開いた。  軍用ナイフを手に入れた。  しばらく歩くと礼拝堂が見えてきた。  沼男が動き出す19時30分まで残り5分だ。  広美は礼拝堂に隠れることに決めた。  礼拝堂はレンガ造りの長方形の建物である。簡素な外観で、建築様式上の特徴も装飾もない。ファサードも行列用の入場口もなく、礼拝堂への入り口は宮殿内から通じる一箇所のみとなっており、礼拝堂は三階建てで、一階部分がもっとも大きく、実用的な窓がはめ込まれた壁面と円天井、そして宮殿へと通じる出入り口で構成されている。礼拝堂のもっとも重要な階層といえる二階は奥行き40.9m、幅13.4mだ。円天井の高さは20.7mで、壁両側面にはそれぞれ6枚の細長いアーチ状の窓があり、片端面には2枚の窓がある。三階部分には建築途中で放棄されている、外壁のアーチ状構造物に支えられた、礼拝堂を巡る渡り通路がある。    19時30分  沼男が洋館を出た。宝箱の鍵は3つ。ロシアになんか来るんじゃなかった。誠は偉大なる先生だった。  沼男は学生時代に拓哉と平太、月子の3人からイジメに遭っていた。  教室で下着を脱がされる、歌などの芸を命じられる、殴られるなどだ。 『金太郎』の歌に合わせて身振り手振りをする芸をさせられたときは死にたくなったが、そのうちいいことがあると信じて死ぬのをやめた。  殺すなら3人のうちの誰かだ。だが、運の悪いことに3人とも沼男と同じ人狼グループだ。    同じ頃、邦彦はまだ食堂にいた。  月子、夏美、則夫、平太、拓哉の5人もまだ座っていた。  拓哉はうつらうつらしていた。  邦彦はハラスメントを行ってヒットポイントを増やす作戦を立てた。    拓哉を生贄に選んだ。  彼は喘息を患っており、煙草を嫌っていた。  邦彦はスモークハラスメントを行うことにした。  煙草の煙で非喫煙者に受動喫煙をさせたり、非喫煙者に煙草を吸うことを強要したりすることがスモハラに当たる。  煙草を吸っている人の近くにいるだけで服に煙草の匂いが付き、人によっては目が痛くなる、咳が止まらなくなる人もいる。  邦彦は拓哉の近くに座り、セブンスターにZIPPOで火を点けた。  煙を吸った拓哉はゴホゴホと咳き込んだ。  賀来邦夫のスキル  💀 オカハラ 風邪回避  💀 スモハラ 毒攻撃回避  💀 ヌルハラ 銃攻撃回避  20時、沼男は寂れた礼拝堂にやって来た。幼い頃、母親から聞いた吸血鬼の話を思い出し、マフカの正体は吸血鬼ではないかと疑い始める。  一度死んだ人間が蘇ったもの、生きているもの、霊のように実体が無いもの、魔女や悪魔、精霊や妖怪などの人間ではない存在、狼男、変身能力を持った人間、吸血動物、睡眠時遊行症者が該当する。  古くから血液は生命の根源であると考えられており、死者が血を渇望するという考えも古くから存在する。例えばアステカでは人間の心臓と血液を捧げる血の儀式があり、キリスト教では血が神聖視され、古代ギリシアの叙事詩『オデュッセイア』では、オデュッセウスが降霊の儀式を行う際に生け贄の子羊の新鮮な血を用いるくだりがある。このようなイメージが吸血鬼を生み出したと考えられる。  吸血鬼伝承の形態は、全ての民間伝承がそうであるように地域や時代によって一定しないが、一度は葬られた死者が、ある程度の肉体性を持って活動し、人間・家畜・家屋などに害悪を与えるという点では、おおむね一致している。  吸血鬼の姿はぶよぶよした血の塊のようなものであるか、もしくは生前のままであるとされることが多い。両者とも、一定の期間を経れば完全な人間になるとされることもある。また、様々な姿に変身することが出来るとされる。吸血鬼は、虫に変身する、ネズミに変身する、霧に変身するなどの手段を用いて棺の隙間や小さな穴から抜け出し、真夜中から夜明けまでの間に活動するものとされた。また、地域によって異なるが、特定の月齢や曜日、キリスト教の祭日などの日には活動できないとされる場合が多い。吸血する際は、長い牙が出現するとされている。また、最近では、獲物である人間を惹きつけるために、美しい容姿を持つとされることが多い。  死者が吸血鬼となる場合は、生前に犯罪を犯した、神や信仰に反する行為をした、惨殺された、事故死した、自殺した、葬儀に不備があった、何らかの悔いを現世に残している、などの例が挙げられる。また、これらの理由以外にも、まったく不可解な理由によって吸血鬼になることもあり、東ヨーロッパでは葬られる前の死体を猫がまたぐと吸血鬼になるとされた。そのため吸血鬼の存在が強く信じられた地域では、墓に大量の黍を捲く、にんにくを置く、茨を置く、一定期間墓の周りで火を焚き続ける、などの予防措置がほぼ全ての死者に対して行われた。  吸血鬼がその活動によって与える害悪としては、眼を見る・名前を呼ぶ・何らかの方法により血や生気を吸うなどの手段により人を殺す、家畜を殺したり病気にする、家屋を揺さぶる、生前の妻と同衾し子供を産ませるなどの例がある。  近年では、吸血鬼に生き血を吸われた人間や、吸血鬼に殺された人間が吸血鬼になるとされることも多い。    20時、月子は洋館を出た。宝箱を探したがどこにも見当たらなかった。魔法石を手に入れれば人狼すら倒せるかも知れない。  だが、夜間はあまり徘徊しない方がいいかも知れない。寒さが厳しくなってきた。  月子は川沿いを歩いている。霧が濃くなってきた。 「あ〜寒い」  寂れたアパートに月子はやって来た。  20時30分  夏美が洋館を出た。散弾銃と弾薬、防弾チョッキを倉庫で手に入れた。人狼だったのはハッピーだ。多分、1番強いはずだ。  夏美は他の7人、誰も殺したくなかった。  メガネが曇ってきた。夏美はかつて、産婦人科医だった。赤ん坊はみんな可愛かった。1日の流れはこんな感じだ。  8:00〜 朝回診 チーム全員で担当している患者さんの元へ回診に行く。  8:15〜 朝カンファレンス 昨晩の当直の先生から救急症例や手術の報告がある。  8:30〜 処置 。  9:00〜 手術 。  12:00〜 お昼ご飯+休憩 。  13:00〜 手術 。  15:30〜 分娩 。  18:00〜 夕回診。  夏美が医者を辞めたのは病気になったからだ。うつ病だ。ミスをしたわけじゃないが、ミスをしたことを想像すると夜も眠れなくなり、患者達がゾンビになって襲いかかる夢を見たりして恐ろしくなった。    20時50分  夏美は洋館にやって来た。木造平屋建、屋根は多角形の寄棟造、桟瓦葺き、建築面積510.8平方メートル。附属屋は木造平屋建、桟瓦葺き、建築面積129.2平方メートル。平面はT字形の複雑な構成になり、中央にある主人寝室から見て南西方向に、北西方向に応接室、北東方向に大食堂の主要3室が位置する。このほか、主人寝室に接して小道具室と重要書類室、大食堂に接して小食堂と広間、応接室の北に接して温室などがある。建物の裏手(東側)には酒倉、配膳室、廊下、子供室などがあり、子供室から東方向へ伸びる棟には工作室、浴室、便所を設ける。建物の北・西・南の各面にはベランダを設ける。玄関はなく、ベランダから直接各室に出入り出来る。  夏美は西側にあるベランダから館に入り、主人寝室に入った。リュックサックをソファの上に置いた。    夏美は、肉体から魂が抜け出る不思議な体験をした。マフカの魔術の仕業だろうか?  夏美は平太に好意を持っていた。どことなく『東京ラブストーリー』の頃の織田裕二に似ていた。 『ずっちーな』って言うときのハニカムときの顔が好きだ。  もしかしたら平太を殺さなくちゃいけないときが来るかも知れない。そしたら、夏美は受け止められるだろうか?  夏美はソファの上に仰向けに寝た。  平太のことを思ってオナニーした。 『夏美のおっぱい綺麗な形……乳首もピンクで可愛い。舐めたい……」 『えっ…恥ずかしいよ……』 『気持ち良くなれるから、力抜いてて?』  が、イケなかった。  あと少しで則夫が出発する時間だ。  則夫は激しやすいタイプで医学生時代に、論文の編集係だったが夏美が就活などで〆切ギリギリに提出したら、『先輩のせいでバイトが出来ねーだろ!』と怒られた。  廃墟なので電気やガスは繋がってないから、風呂や暖房は使えない。ホッカイロを持ってきてよかった。リュックサックから足に貼るタイプのと、背中に貼るタイプのを出して貼った。ポカポカしてきた。  ウォォーッ!と獣の咆哮が聞こえた。  冬場ってのは獣は冬眠するんじゃないのか?    21時  則夫がK館を出た。夏美が宿泊してる洋館はTの形をしてるのでT館、則夫たちがいる洋館は上から見るとKの形をしてるのでK館と呼ぶことにする。  則夫は天狗のカードを手にしていた。  沼男が悪魔、夏美が人狼、平太が鬼か。  元々天狗という語は中国において凶事を知らせる流星を意味するものだった。大気圏に突入し、地表近くまで落下した火球(-3〜-4等級以上の非常に明るい流星)はしばしば空中で爆発し、大音響を発する。この天体現象を咆哮を上げて天を駆け降りる犬の姿に見立てている。中国の『史記』をはじめ『漢書』『晋書』には天狗の記事が載せられている。天狗は天から地上へと災禍をもたらす凶星として恐れられた。  天狗が成立した背景には複数の流れがあるため、その種類や姿もさまざまである。一般的な姿は修験者の様相で、その顔は赤く、鼻が高い。翼があり空中を飛翔するとされる。このうち、鼻の高いのを『鼻高天狗』、鼻先が尖ったのは『烏天狗』あるいは『木の葉天狗』という。  則夫は天狗みたいな顔になったら夏美に嫌われるんじゃとビクビクしたが、容貌が変わることはなかった。  則夫は昔から鈍感で、夏美とつきあっているのだが、彼女が平太に浮気してることは気づいていない。が、カードを配られたときに神経が研ぎ澄まされ、夏美の心の内側を垣間見ることに成功した。  平太が村人サイドだったらどれだけよかっただろう?明日の朝6時までは狩りが自由だ。則夫は昔から寒さには強かった。だから、スキーが好きだった。新潟の苗場スキー場や越後中里スキー場、福島の猪苗代スキー場などに出かけた。中学時代に見た『私をスキーに連れてって』に影響されてスキーをはじめた。  三上博史、原田知世、竹中直人などが出ていた。  中里スキー場はブルートレインを改装した休憩所があった。何年か前の冬、そこで夏美とカレーを食べた。     歩いて20分、小高い山が見えてきた。坂道をグングン登っていく。宝箱を探した。ボーガンとかライフルとか遠距離から攻撃が出来るものがいいな。接近戦は苦手だ。中年のときの体育の時間に柔道をやったが、怖くて仮病を使って休んだ記憶がある。  ロシアには基本的に大陸性気候が卓越する。すなわち気温の年較差が大きい。ケッペンの気候区分に従うと、亜寒帯(冷帯)(D)に分類される地域が大半を占める。西部は大西洋の影響を受けるものの、東に進むにしたがって大陸性気候の特徴がはっきりしてくる。冬はシベリア付近で放射冷却のために気温が著しく下がり、優勢なシベリア高気圧が形成される。北半球で最も寒い地域で、寒極と呼ばれる(たとえば−71.2 °C〔オイミャコン〕、 −66.7 °C〔ベルホヤンスク〕)。しかしながら夏季には最高気温が30 °Cを超える。  典型的な植生は北極海沿岸がツンドラ、南に下るにしたがって針葉樹林のタイガ、混交林(こんこうりん)、プレーリー、ステップに移行していく。  吐く息が白い。オーバーを着てきて正解だ。ネックウォーマーも持ってきた。宝箱はなかなか見つからない。    残り10分でゲームがスタートする。平太は従者と会話をした。従者は日本語が堪能で、メイドだけでなく通訳としての役割も担っていた。 「エリア内にスーパーとかはあるんですか?」 「うん。あるにはある」 「どこにあるんだ?」 「ここから西に行ったところにある」  なかなかの情報を得た。  平太は武器庫で日本刀と鍵を2つ手に入れた。  平太の敵は邦彦、拓哉、月子、広美の4人だ。  21時30分、平太はK館を出た。強烈な寒波に体が凍りつくかと思った。  白樺高原を歩いていると、ケータイがいきなり鳴り出した。『非通知』と表示されている。📞をタップしてケータイを耳に当てた。 《……………ォォ……ウゲッ!》  そこで電話は切れた。電話がかかってきた時刻は21時45分だ。  最後のウゲッ!は、きっと断末魔だ。平太は身震いした。他の7人の誰かが助けを求めるために電話をしてきた。  問題は何故、非通知だってことだ。  平太はあの有名な探偵と同じ名字を持つが、あの探偵の子孫ではない。医者になれたのも父親のコネがあったからだ。  方程式も古文も全然ダメで、中3のときの数学のオバちゃん先生に『このままじゃ進学は無理ね?古畑さん、アナタは無能な今泉以下ね?』と鼻で笑われたことがある。  殺されたのはきっと村人の誰かだ。  そのとき、平太の脳細胞が活性化された。  警官のカードを手に入れた奴なら人狼の誰かを把握することが出来る。そいつが参加者の誰かを殺した。非通知だったのは僕が人狼チームであると知ってしまったから。もしかしたら、犯人は村人の誰か?犠牲者は村人の誰かに追いかけられていて、村人チーム全員を疑った。だから、敵である僕に電話してきた!  殺人鬼が僕の電話番号を知ってしまった可能性はかなり高い。だとしたら、超危機的な状況だ。殺人鬼がゲームに勝利する理由ではなく、何か別の理由で村人を殺した?    21時50分  🏚山小屋の灯りが見えてきた。ロシアで葬式をやると知ったときにロシア語を勉強した。幸いにして則夫の勤める総合病院には図書室があるので、無駄な金を使わずに済んだ。  看板には『туман』とある。トゥーマンと読み、霧を表す。  第1新館・第2新館・第3新館の3つの宿泊棟と、本格的なレストランや売店の入った棟がある。第1新館の1階と2階は相部屋、3階は2人用個室となっている。第2新館は1階と2階がもっと大きな個室で、3階が相部屋。第3新館は1階が食堂で2階はホテル並みの個室と本格的な洋室を備えている。閑散期は第1新館は閉鎖される。第1新館の東端は非対称山稜の崖に面している。 「Могу я остаться?」 「宿泊できますか?」と、則夫はカーネル・サンダースみたいな、ヒゲと眼鏡がトレードマークの初老のオーナーに尋ねた。 「вы в порядке」 「大丈夫」と、オーナーは言った。  第2新館の3階に案内された。相部屋だが、まだ誰もいない。  エアコンをつけた。ポカポカしてきた。  足先がジンジンしていた。  このホテルではヘリコプターによる大規模な物資輸送と、大容量の自家発電により飲料水のポンプアップが行われており、山頂直下の山小屋にもかかわらず、比較的物資や水に不自由しない。  喉がカラカラだった。レストランでウォッカを飲んだ。ロシアでは、ウォッカをロックや水割りで飲むことはなく、基本的にはストレートで飲む。 ロシア流おいしい飲み方はウォッカをボトルごと冷凍庫に入れて-20℃くらいに冷やしておく。そうするとウォッカが完全に凍らずにトロっとした感じになる。 「ん〜芳醇」  則夫は小学生のときアトピーで、背中や顔だけじゃなく尻やアソコまで痒くなった。そんなもんだから、イジメの対象になった。小4のときに合田(ごうだ)ってデブに『ばい菌、こっから出てけ!』と殺虫スプレーを帰りの会のときに顔にかけられた。   近所のクリニックに行って受診した。アトピー性皮膚炎の患者は皮膚のバリア機能が低下しており、さまざまな刺激に皮膚が反応して炎症が生じやすくなる。皮疹の広がり方は小児と成人では異なるという特徴がある。皮膚から水分が失われやすくなるために、乾燥肌の患者が多いこともアトピー性皮膚炎の特徴だ。  アトピー性皮膚炎は、皮膚症状が悪くなったり改善したりをくり返し、強いかゆみのある湿疹が認められ、そして『アトピー素因』をもつ。     則夫の場合はアレルギー性結膜炎が起きたときに、目を掻いた手で皮膚に触れたのが原因だ。  年齢的な特徴 ・乳児期:頭や顔に始まり、次第に体や手足に降りていく傾向がある。 ・幼小児期:首や手足の関節に皮疹ができやすい傾向がある。 ・思春期・成人期:上半身(頭、首、胸、背中)の皮疹が強い傾向がある。  ステロイド外用薬を処方してもらったら痒みがなくなり、合田の攻撃も止まった。神田正輝(かんだまさき)に似た皮膚科医が魔術師に思えた。  テーブルに置いたAndroidが鳴り出した。相手は平太からだった。 《猫田、無事か?》 「古畑どうした?」 《何者からか電話がかかってきた。そいつは苦しそうな声を残して切った》  悍しい。遂に第1の犠牲者が出てしまったようだ。 《おまえ今、どこにいるんだ?》  則夫は平太が、月子や拓哉と結託して沼男をイジメていたことを思い出した。拓哉は沼男を殴ったり、パンツを脱がせたりして『こいつ小せー』とか言って、月子はそれをケータイカメラでパシャパシャ撮って『ばらまれたくなかったら金持ってきなよ』と脅していた。平太は最初は沼男とカラオケに行ったりして遊んでいた。  月子と拓哉が24歳(6年生)、沼男と平太が23歳(5年生)のときだ。13年前だから、2006年ってことになる。ライブドア(現・LDH)の代表取締役社長であった堀江貴文らが証券取引法違反容疑で逮捕され(ライブドア事件)たり、夏の甲子園大会で早稲田実業を優勝に導いた斎藤佑樹投手は「ハンカチ王子」と呼ばれ注目を集めたり、悠仁親王の誕生。小学生・中学生による自殺の多発。臓器移植事件や医師不足などにより、この年の漢字1字は『命』だった。 『こんだけ医者が足りなかったら、意外と簡単に夢が叶うかもな?』  則夫がこの年の3月に流行った『純恋歌』(湘南乃風)を歌ってる最中、新聞を読んでいた平太がハハハ〜と笑い出した。隣の沼男は『そんなに世の中甘かねーよ』とデンモクで歌う歌を探していた。  精密採点の結果、則夫は89点。暗い部屋に拍手が響き渡る。 『医者じゃなくて歌手になろうかな?』  呑気そうな平太の正体はスパイだった。沼男の居場所を教えたりして、拓哉の標的になるのを免れていたのだ。 「おめーに教えるわけねーだろ!? おめーなんか沼男に殺されりゃいいんだよ!」  そう吠えて則夫は通話を一方的に終えた。  邦彦は黒頭巾の従者に宝箱の場所を尋ねた。 「宝箱は全部で何個あるんだ?」 「8つある」  振り子時計が10回鳴った。風が強くなってきた。窓ガラスがガタガタ鳴った。  それにしても無職者なんて古風な言い回しだ。  邦彦はK館を出た。  今どきはニートだろ?鍵は1つだけ。取捨選択しないといけない。グレネードランチャーみたいな強い武器が入ってないだろうか?  木枯らしなんて生易しいもんじゃない。吹雪になりつつある。暗闇な上、雪に視界を遮られ見通しが効かない。道路の脇に防風林や防雪柵が設置されており、道路上に雪が舞い上がったり視界を遮ったりしないように対策してはいる。  邦彦は気象学に詳しかった。  冬は晴れていても日照時間が短いことに加え、吹雪によって太陽光が遮られると、朝は遅くまで、夕方は早くから暗くなってしまう。  なお、風雪とは飛雪の有無に関わらず、強風で雪が横なぐりに降っている気象状態をいう。  ユーミンの歌に『Blizzard』ってのがあるが、ブリザードは、もともと北アメリカ大陸にあった方言で、風速が毎秒15メートル以上で視程400メートル以下の状態が3時間以上継続する気象状態をいうが、日本では猛吹雪や暴風雪の意味で使われることが多い。  南極大陸の昭和基地においては、視程1km未満、風速10m/s以上の状態が6時間以上続いたときを『ブリザード』としている。また、以下の基準でブリザードの規模を分類して、外出制限の基準としている。  K館のすぐ近くにスノーモービルが駐車されていた。コイツを使えば楽に移動できる。  操舵装置として前部にそりを、駆動装置として後部に無限軌道(トラックベルト)を備えている。跨座式の座席と棒形のハンドルを備え、乗員の乗車姿勢はオートバイなどの乗り物に近い。雪や氷の上を走行できる。エンジンは90cc前後から1,000cc近くの排気量機種まで存在する。実能を重視した車種も製品化されている。  余談だが、20世紀初頭のロシア帝国では、無限軌道ではなくプロペラによって推進される動力ソリ『アエロサン』が独自に開発され、犬ぞりに代わる冬季間の移動手段として用いられていた。  第一次世界大戦および第二次世界大戦では軍用型が開発され、中には機銃や軽装甲まで装備した武装型までもが、冬季、氷雪上という運用上の大きな制限こそあったが、実用化されていた。  アエロサンは現在も運用されており、中にはボートとして夏季も使用できる水陸両用型もある。  なお、ソ連軍と対峙していた東部戦線のドイツ陸軍でも類似の雪上車両『タトラV855』が試作されたが、制式採用されなかった。    邦彦は一旦、K館に戻ることにした。振り子時計を見たら既に10分が経過していた。 「あれ、どうしたんだ?」  黒頭巾がトイレから出てきた。 「あのスノーモービルは動くのか?」 「大丈夫だ」 「鍵を貸してくれないか?」  「ちょっと待ってろ」  早くしてほしい。時間を無駄にしたくはない。  電気ストーブで冷え切った体を温めた。  このゲームに勝ったら永久の魂が手に入る。一生遊んで暮らせる。医療費って馬鹿にならない。休日に風邪で受診したときは肝が冷えた。 「待たせたな?」  黒頭巾からキーを受け取ると外に出た。吹雪はさっきよりは弱くなっていた。  オカハラしたときに風邪を引かない魔法を得たことを、邦彦は知らない。  スノーモービルで丘を下っていく。絶叫マシンに乗ってる気分だ。  ハザードランプやヘッドライトを付けて、周囲に存在を知らせ、時速10km前後までゆっくりとスピードを落とした。トンネルを潜った先は白い闇だった。ホワイトアウトだ。  ホワイトアウトには極地付近に多く見られる地表一面の雪面と全天の層雲の条件下で発生する場合と、吹雪時に発生する場合とがある。  地表一面の雪面と全天の層雲の条件下で発生する場合は、雪面の明るさがほぼ等しく(地表の凹凸が分かりにくく)、地表と空の明るさもほぼ等しく(地平線も分かりにくく)、その空間が白色に満ちて明るく輝いているという三条件が揃ったときに発生する。この場合は必ずしも空中に雪粒子があるとは限らず、主に雪面の雪粒子と雲粒子による光の散乱が要因になっている。  吹雪で発生する場合は、空中の雪粒子による光の反射や散乱によって生ずる。吹雪によるホワイトアウトは、視対象(前方の車や歩行者など)への最短距離よりも視程が悪いときに、あるはずの視対象の全てが見えなくなって生じる。道路上では雪が降っているときのほか大型車が巻き上げる雪煙が原因になることもある。  邦彦は思わずスノーモービルを停めた。  恐怖心はかなり強かった。崖下に落下したら命はない。実は邦彦の学友はもう1人、財津准(ざいつじゅん)ってポール・マッカートニーみたいなマッシュルームカットの奴がいたが、谷川岳へ登山に出かけ、遭難し友人は高山病による高地肺水腫で死んだ。  永遠にも感じる時間が過ぎ、ホワイトアウトが晴れた。邦彦はスノーモービルを再スタートさせた。  邦彦は不意に後ろを振り返った。小さい光が見えた。一瞬、民家の灯りかと思ったがそれはスノーモービルのフロントライトだった。  一体誰だ!?    22時30分  拓哉が椅子から立ち上がった。 「俺で最後か……」  黒頭巾から宝箱の鍵を3つと、トランシーバーをもらった。 「健闘を祈る」 「気になってることがあるんだが、アンタの名前は?」 「頭師(ずし)だ」 「頭師食いねー♪」  「それを言うなら寿司やがな」  K館を出て歩いた。雪が降ってる。善太(ぜんた)ってポリオを患ったガキを思い出した。ポリオ(急性灰白髄炎)は脊髄性小児麻痺とも呼ばれ、ポリオウイルスによって発生する疾病だ。 名前のとおり子ども(特に5歳以下)がかかることが多く、麻痺などを起こすことのある病気だ。 主に感染した人の便を介してうつり、手足の筋肉や呼吸する筋肉等に作用して麻痺を生じることがある。 『ボクんちパパがいないんだ。先生、僕のパパになってよ』  拓哉はトランシーバーに向かって喋った。 「人狼は誰だ?」 《冨樫夏美だ》  どことなく女優の加藤あいに似てる高飛車な女。 『大学生になってイジメしてるって精神がお子ちゃまなんじゃない?』  人狼が邦彦じゃなくてよかった。昔からアイツは苦手だ。誠先生の息子だけあって不気味なオーラがある。ヤバい連中と繋がりがあり、副業で殺し屋をやっていたなんて噂もある。  拓哉は時刻を調べようと、ケータイをジャンバーの胸ポケットから出した。22:45。残り15分で隠れる場所を見つけないといけない。  電池の残量があまりない。25%。  見ていたかのようにケータイが鳴ったのでヒヤリとした。相手は平太だった。 《先輩、無事ですか?》 「平太、藪から棒になんだ?」 《何者かが俺宛に電話してきたんです。そいつは呻き声を残して電話を切ったんです。しかも、非通知ですよ?》 「他の奴には電話したか?」 《広美と夏美が電話に出ません》  広美が夏美を殺した?それとも、夏美が広美を殺した?もしかしたら、広美は俺と同じ村人なのか?  残量が24%に減った。 「ケータイの充電があまりないんだ。悪いが切るぞ?」 《キチンと繋がるようにしといてくださいよ?》    平太は南東にある廃病院にいた。拓哉との通話を終えたばかりだ。メチャクチャ寒い。マグライトを点けた。ナースコールが突然鳴り出したのでビックリした。こりゃあ絶体、何がいる!!が、外は猛吹雪だ。これ以上寒い思いはゴメンだ。  ナースコールはすぐに鳴り止んだ。  彼が耳鼻科医になった理由は、父親が難聴だったが名医によって治ったからだ。  平太はゾンビ看護師の話を思い出した。月子が教えてくれた話だ。恐ろしい形相をした看護師で、夜の病院を台車を押しながら徘徊し、死が迫ってる人を見ると追い掛けてくる。  追い掛けられた患者がトイレの一番奥の個室に逃げ込み、息を殺しているとゾンビ看護師がトイレに入ってきて、トイレのドアを一つずつ開けながら「ここにもいない…」と呟く。患者が「次は自分の個室だ」と思っていると、物音がしなくなる。夜が明け、安堵した患者がトイレの個室から出ようとするが扉が開かない。不審に思った患者が、ふと上を見るとゾンビ看護師がドアを押さえて上から覗いていた。患者はゾンビ看護師に一晩中、ドアの上から個室を覗かれていたのだ。  平太は不意にケータイをウェアのポケットから出した。『圏外』 「絶体絶命だ」  何か起きても助けも呼べない。  刀を鞘から抜いた。もしかしたら、村人の誰かが待ち受けてるかも知れない。 《……………ォォ……ウゲッ!》  断末魔を思い出して怖くなった。   🏚山小屋が見えてきた。拓哉は息を撫で下ろした。『туман』という名前の宿だ。  相部屋で則夫と再会した。 「妙なところで会いましたね?」と、則夫。  則夫はMDを聴いていた。💽 「イマドキそれかよ?」 「悪いんですか?」  則夫が聴いてるのは広瀬香美の『ゲレンデがとけるほど恋したい』だ。 「別に……」   則夫は天狗のカードを手にしていた。村人全員を察知することが出来る。拓哉は警官だ。いずれ殺さないといけないようだ。則夫は早く武器を手に入れたかった。  時刻は23時半になるところだった。  曲が『ピアニシモ』に切り替わる。   拓哉はソファにどっこいせと、腰掛けた。  「おっさんみたいですね?」    「37だからな……」  則夫があるつらら女って怪談を話し始めた。  独身の男が、自分の家の軒下にぶら下がったつららを見つつ「このつららのように美しい妻が欲しい」と嘆いていると、その願いの通り美しい女が現れ、妻にして欲しいと願う。この女はつららの化身だったのだが、その顛末には諸説ある。  その1 - 東北地方、青森県、新潟県  女は男と夫婦になったが、なぜか風呂に入るのを嫌がった。男は無理に勧めて入浴させたが、女は一向に上がってこない。心配した男が風呂を覗くと、女の姿はなく、湯船に氷の欠片がわずかに浮かんでいた。     その2 - 秋田県  上記と類似した話だが、この秋田の話のみ、独身男のもとに女が現れて結婚を願う話ではない。 大雪の夜、とある夫婦の家を1人の女が訪ね、宿を借りたいと頼んだ。夫婦は快く承知した。  そのまま雪で外出もままならない日々が続き、女はその家に泊まり続けた。夫婦は気を利かせて風呂を沸かしたが、女はなかなか入らない。しかし夫婦の勧めを断りきれず、女は悲しげに入浴した。ところが女は一向に上がってこない。  心配した夫婦が風呂を覗くと、女の姿はなく、天井から1本のつららがぶら下がっていた。  その3  急にやって来た女は男と結婚したものの、春になると、女は姿を消してしまった。男は女に逃げられたものと思い悲しんだが、その年の内に別の女と再婚した。  そして冬。男のもとへ、あの女がまた現れた。男が再婚したことを知った女は怒りのあまり、つららに姿を変えて男を刺し殺してしまった。    窓の外は吹雪いている。つらら女でも現れそうな雰囲気だ。    寂れたアパートをアジトにしていた月子はロシアに伝わる怪物、キキーモラを思い出していた。  キキーモラの名は、語源的には「キキー」と「モーラ」に分けることができる。前者の意味は不明で、さまざまな説が唱えられており、「キーキー」という擬音語からという考え方が有力である。後者の「モーラ」はスラヴ人の民間伝承に登場する吸血夢魔モーラである。  外見については複数の説がある。ある立場では、顔は狼、白鳥のようなくちばしがあり、胴体は熊、足が鶏。尾はボルゾイである。本項目の画像はこの説に基づいている。  別の伝承では小柄で痩せた、背の曲がった老婆姿の妖怪とイメージされている。  不幸な子供の死霊がキキーモラになるという伝説もあり、実際にロシアで一般的に信じられているキキーモラ像は、決して年をとらない少女である。  目立つのを嫌うせいか、家の木陰にひそんでいる。働き者には願いをかなえ、怠け者は餌として喰らって行く。性格は大抵おっとりで、害されても抵抗はしない。他方で夜中に大暴れをし、騒音をまき散らす妖精とする解釈もある。また、キキーモラが特に強く関心を持っているのは機織りといわれ、夜中に大きな音を立てて機を織るという伝えもある。  キキーモラを老婆とする場合は家と密接な関連があるようで、家の中では騒いで安眠を妨げたり、火事、病などの災いをもたらす。また余所から来た大工がキキーモラを新築の家の中に入れて細工・呪術をしているという迷信もある。    すぐ近くに人狼がいると思うと月子は恐怖感で鳥肌が立った。    ドンドン……ドン!  ドアがノックされる音がした。    数時間前……広美は平太のことを思い出していた。彼は拓哉の取り巻きって理由で夏美から嫌われていた。広美は最初は平太のことが嫌いだった。  14年前……22歳、2人が4年生のときのことだった。2005年、小泉首相が行った郵政解散とその後の総選挙における政治手法は「小泉劇場」とも呼ばれ、大勝を収めたり、ライブドア(現・LDH)によるメディア買収騒動が起き、中心人物の堀江貴文を筆頭として六本木ヒルズに拠点を置くヒルズ族が注目を集めた時代だった。  お姉系ファッションを中心に、巻き髪が流行し、広美も流行に合わせていた。    7月26日 - 日本人宇宙飛行士野口聡一が搭乗したスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げに成功。2週間のミッションを終え、8月9日に地球に帰還。  同じ日、広美は同期の沼男、則夫、平太と湘南にドライブに出かけた。平太はオープンカーを颯爽と飛ばしていた。烏帽子岩が見えたとき、サザン・オールスターズの『勝手にシンドバッド』を思い出した。烏帽子岩はあの曲に出てくる。  湘南の語源は、かつて中国に存在した長沙国にあった洞庭湖とそこに流入する瀟水と湘江の合流するあたりを瀟湘と呼び、相模川河口付近がその南部に似ていたことから、瀟湘と湖南より一字ずつを取り湘南としたとされている。  藤沢市内を走っていた。  県の行政区域「湘南地域」の東部に位置する。江の島や姥島(烏帽子岩)を中心とした海岸風景は、いわゆる「湘南」の代表的なイメージである。  しかし、江ノ電沿線の大正時代に開発された住宅地である鵠沼や片瀬地域では、湘南(若者)のイメージからかけ離れた邸宅が見られるほか、内陸部に位置する藤沢市中心部は湘南の基本的な定義である「相模湾沿岸」に該当しない。経済活動も藤沢バイパスや相鉄いずみ野線、横浜市営地下鉄ブルーラインで結ばれる横浜とつながりが深い。「湘南」を冠する神奈川県立湘南高等学校、私立湘南学園(幼稚園 - 高等学校)(いずれも藤沢市に所在)は、湘南地域外からの通学者が多くなっている。  北部は海からも遠く、現代の「湘南」というイメージとはほど遠い工業・田園地帯である。地理的にも、町の雰囲気からみても、湘南と呼べるのは事実上東海道本線以南の沿岸地域だけといえるが、キャンパスの名称やマンション・アパート名など、大学や不動産業者のネーミング戦略的な理由により、かなり広い範囲で「湘南」「新湘南」が当てられている。  藤沢市北部に小田急江ノ島線・相鉄いずみ野線・横浜市営地下鉄の湘南台駅があり、その西に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと文教大学湘南キャンパスがある。やや南の六会にも日本大学湘南キャンパス(旧・藤沢キャンパス)があるが、いずれも海岸からかなり離れた田園・丘陵地帯に位置する。  藤沢市西部、茅ヶ崎市北部にまたがる区域には「湘南ライフタウン」と呼ばれるニュータウンが存在するが、海岸地域ではなく、北部の丘陵地域を開発したものである。  昭和の「湘南」のイメージが一般にも定着している加山雄三は横浜生まれだが茅ヶ崎育ち、またサザンオールスターズの桑田佳祐は茅ヶ崎市の出身であり、現在は茅ヶ崎海水浴場も「サザンビーチ」と呼ばれている。   「それしても広美はエンクミに似てるよな?」  ハンドルを握りながら平太が助手席でケータイをいじってる広美に言った。 「『金田一少年の事件簿』で犯人役やったよね?」  後部席で缶コーヒーを飲んでいた則夫が言った。 「『怪盗紳士殺人事件』だろ?ドラマと原作じゃ殺される人数が違ったよな」と、平太。 「そうだったっけ?」と、則夫。 「広美は将来、何科で働くつもりなんだ?」  平太がウィンカーを右に出した。  海風が心地よかった。 「眼科で働きたい」 「理由は?」と、沼男。 「ずっと黙っていたけど、私ね緑内障を患ってるんだ」 「マジ?」  平太が深刻そうな顔になった。  緑内障の症状として知られるのは、見える範囲が狭くなっていく視野障害、そして視野の一部が欠ける、「暗点」の出現だ。 ただ、これらの症状はゆっくりと進むことが多く、自覚されづらいのが特徴だ。  緑内障になりやすいのは、高血圧や低血圧の人や、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群の人や、偏頭痛持ちの人や、強い近視の人などとされている。 血縁のある家族に緑内障の患者がいる場合も注意が必要だ。広美は偏頭痛持ちだ。  緑内障は治る病気ではなく、治療は進行を遅らせて、生涯にわたり視機能を保つようにするのが目的だ。 従って、生涯通院することになる。 広美の緑内障が発覚したのは17歳の時だ。そのときから暗闇の世界が訪れることを毎日のように恐れた。広美にはこれといった夢がなかった。緑内障予備軍になったことで、盲目の歴史上の人物に憧れるようになった。なかでも広美が気に入っていたのはヘレン・ケラーだ。    ヘレン・ケラーは視覚と聴覚の重複障害者(盲ろう者)でありながらも世界各地を歴訪し、障害者の教育・福祉の発展に尽くした。  ヘレンは福祉活動のみならず、広範囲な政治的関心を持って活動した女性であった。当時としては先進的な思想を持ち、男女同権論者として婦人参政権、コンドームの使用を主張した。また、人種差別反対論者であり、過酷な若年労働や死刑制度、そして第一次世界大戦の殺戮にも反対した。  これらの活動のため、ヘレンはFBIの要調査人物に挙げられている。最初の訪日の際には特別高等警察の監視対象になっていた。  広美はヘレン・ケラーみたいになりたいと思うようになった。 「最初は悲観的になっていたけど、医学を突き止めて自分の病を治したいと思うようになったの」  13時、4人はサザンビーチにやって来た。英語でのスペル表記は、南地方を指す"Southern"よりも、固有名詞であるサザンオールスターズに肖った面が強かったため、当初"Sazan"から始まっていたが、現在は"Southern"へ変更されている。🏖    茅ヶ崎の海水浴場の歴史は古く、1898年の開設である。明治から昭和中期にかけての茅ヶ崎周辺は、主に9代目市川團十郎を始めとする著名人の別荘や企業の保養所が数多く存在する地域で、そうした人たちの海遊びの場として海水浴場が設置された。  平成に入ってから海水浴客の減少に苦悩していた茅ヶ崎市観光協会が1999年に地元茅ヶ崎市出身の桑田佳祐が率いるサザンオールスターズの名にあやかり、茅ヶ崎海水浴場からサザンビーチちがさきに改名したところ、海水浴客が増え始めた。  2000年8月19日 - 20日に茅ヶ崎公園野球場にてサザンオールスターズの「茅ヶ崎ライブ」が行われ、サザンビーチちがさきには大型映像ビジョン装置を設置して特設観覧席を設け、ライブの模様を臨場感たっぷりに実況中継するスペシャルイベントも開催された。このサザンオールスターズによる茅ヶ崎ライブは、一躍サザンビーチちがさきの名前を全国に広める波及効果を生み、これをきっかけに訪れる海水浴客が年々増え続けている。  2006年、2008年、2012年、2015年、2018年にはaikoが無料ライブ「Love Like Aloha Vol.2」「Love Like Aloha Vol.3」「Love Like Aloha Vol.4」「Love Like Aloha vol.5」「Love Like Aloha vol.6」を開催。フリーライブでありながら毎回2万 - 3万人程度を動員する大規模なもので、ライブではオリジナル曲だけでなく開催地にちなんでサザンや桑田ソロ曲のカヴァーも披露している。  2009年8月21日より湘南茅ヶ崎ビーチパーティ「エンドレスサマー」が開催されている。開催当初は単日開催であったが、2年目より土日の2日間開催に規模を拡大している。  さっきは遠く見えた烏帽子岩が目の前にある。  高さ20m余り、東西約600m、南北約400mにわたる複数の岩からなり、高低の岩が海中にも存在する。凝灰質砂岩を主とする新第三紀の池子層からなる。釣り人のために茅ヶ崎漁港から渡し船が運航されている。  江戸時代には、対岸にあった相州炮術調練場の大筒稽古においても姥島が標的となることがあった。  太平洋戦争前は烏帽子状の岩の先端がもう少し先に延びスマートな形をしていた。1952年(昭和27年)7月26日に、対岸の辻堂海岸一帯が在日米海軍辻堂演習場となり、本演習場区域を含む海上演習場として、オーボー第一区域(“Area Oboe One”)が定められ、姥島を海岸から海への直接射撃の目標とし、1954年(昭和29年)4月13日まで使用された。このために先端が欠けて現在の姿となったといわれている。  茅ヶ崎市出身の桑田佳祐がリーダーを務めるサザンオールスターズのヒット曲『チャコの海岸物語』や『HOTEL PACIFIC』の歌詞にも歌われている。『希望の轍』のサビの歌詞中に登場する“エボシライン”は、烏帽子岩を望む国道134号を指す、とされる。  この年の7月26日 - 8月9日にスペースシャトルディスカバリーのSTS-114に搭乗した茅ヶ崎市出身の野口聡一宇宙飛行士を応援するため、8月6日に烏帽子岩をライトアップした。    広美はゴムボートに乗って遊んでいたが、気づいたら砂浜が遠くなっていた。離岸流に流されてしまったのだ。  離岸流とは、海浜流系の一種で、海岸の波打ち際から沖合に向かってできる流れのこと。幅10メートルから30メートル前後、長さ数十メートルから数百メートル前後で生じる、局所的に強い沖方向の波。主に、海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする時に発生する強い流れ。向岸流の対義語。  一般に、海岸から離れた海域では比較的一様な流れである沿岸流が存在する。だが、海岸に近い海域では海水は循環しており、沖合から海岸に向かう「向岸流」、海岸に沿って流れる「並岸流」、海岸から離れ沖合に向かう「離岸流」が、一つの循環系を形成している。これらの海浜流の発生は、その海岸の地形だけでなく、風向、風速などの気象、並びに潮流、潮汐などの海象が大きく影響を与え、様々に変化して発生する。  離岸流があるところでは、波峰線が途切れた海面に、通常の打ち寄せる波とは異なるざわついた水面(攪乱)が見られる。注意深く観察する訓練を重ねれば、肉眼でもその存在が認められる。  離岸流の速さは秒速1メートルを超えることがあり、これに逆らって浜に泳ぎ着くことは、水泳のオリンピック選手でも無理である。流れに逆らって泳ごうとしても、結局沖合まで徐々に運ばれ、陸から遠ざかることでパニックに陥り、溺死してしまう。 したがって、各地の海上保安部などでは、まず海岸線と平行方向(つまり沖へ向かう流れに対して横方向)に泳ぎ、波が砕けた地点まで到達したのちに、浜へ向かって泳ぐことが推奨されている。 「お〜い! 広美、大丈夫かぁ!?」  元水泳部の平太はクロールで助けに来てくれた。運が悪ければ2人とも流されてしまう。運は2人に味方したらしく、2人は危機を脱出した。  このときから広美は平太を異性として意識するようになった。  今回も平太が助けに来てくれるんじゃ?と、心の何処かで思っていた。  礼拝堂の外に何か気配を感じた。  広美は軍用ナイフの柄を握りしめた。  ドンッ!ドンッ!外で銃声が聞こえた。身の毛がよだった。撃っているのは人狼のカードを持っている4人のうちの誰かだ。広美以外の村人が人狼に見つかってしまったのだろうか?  ナイフと銃じゃ、圧倒的に銃の方が強い。幸いにして広美はスナイパーライフルを所持していた。  ほとんどの狙撃銃の上部には光学照準器(スコープ)がついており、その倍率は20世紀初頭の古いもので2倍以上、21世紀初頭の新しいもので20倍近くになる(ただし狙撃の用途や想定交戦距離により最適な倍率は異なるため、倍率が高ければ有利という訳ではない)。また、暗視式スコープを装着することで夜間での射撃を可能にする。  単眼鏡の中に現れる照準(レティクル/reticle)に目標を照らし合わせて狙撃を行うが、実際の弾道は直線ではなく、重力の影響を考慮するため遠距離では上向きの放物線を描くことになり、さらに手ぶれや風、湿度、気圧、火薬の劣化などの複数の影響が加わるため、長距離で弾が当たる場所を正確に予測するのは難しい。このため、射手は高度な技術と経験を頼りに照準を垂直/水平微調整(elevation/windage)して目標を狙う必要がある。最近では距離の測定にはレーザーを併用する場合もある。また、狙撃手(スナイパー/sniper)に必要な風や目標、着弾点の情報を報告する観測手(スポッター/spotter)が狙撃を補助する場合もある。近年では距離を測定するレーザー式のレンジファインダー、距離や風、目標物との角度による弾道を計算するソフトウェアを内蔵した専用の端末などの電子機器の性能も向上し、また、これらを複合的に組み合わせるシステム等が開発、実用化されている。  広美の手にしているVSSにもスコープが搭載されている。1987年に開発された自動消音狙撃銃。7.62x39mm弾をベースに作られた9x39mm SP-5, SP-6という専用の亜音速弾を使用する。  1980年代、当時のソ連は冷戦の真っ只中であり、アフガニスタンやチェチェンなど、多数の戦場を抱えており、特殊部隊(スペツナズ)の隠密潜入作戦やゲリラ作戦用消音銃の開発は急務であった。当初はAKMやAK-74、AKS-74Uにサプレッサーを取り付けて使用したが、初速が音速を超えることで衝撃波を発生させる小口径高初速の5.45x39mm弾ではサプレッサーの効果は薄く、無理に装薬を減らせば射撃精度が著しく不安定になってしまうことがわかった。  そこでソ連軍は、銃そのものを消音化するだけでなく、専用の弾薬も含めた狙撃システムの開発に着手した。ソ連は当時の西側諸国のような既存のライフルの精度を高めつつ消音加工を施す手法に限界を感じ、まったく異なるアプローチを開始したのである。  作動機構はガス圧利用式でボルトを回転させ、銃身とロックするターン・ロッキングが組み込まれている。ボルト本体の仕組みや構造はAK-74と共通点が多いなど、構造的にはAK-74を踏襲している。先端左右にはロッキング・ラグを持つ。  AK-74でいうマガジンの直前まで全長を切り詰めている。レシーバーはもちろんバレルも非常に短く、全長のほとんどは大型のサプレッサーと木製のストックで構成されている。通常10連ショートマガジンを使うが、弾数の多い20連マガジンも使用できる。ハンドガードやマガジンはプラスチック製にして軽量化しており、バレルを覆うような大型のサプレッサーはバレルそのものよりも長いほどである。また、バレルには銃口から放出されるガスを減らすための穴が開けられている。これにより、サプレッサーの効果をより高めることが可能になる。固定式の照準装置や大きく肉抜きされた木製ストック、スコープの取り付け方法など、SVDを参考にしたと思われる部分が多く見られる。スコープはPSO-1の9x39mm弾仕様でレティクルなどが異なるPSO-1-1が使用される。サプレッサーとストックをレシーバーから取り外せば、アタッシュケースなどに収納可能である。  開発時に要求された性能が「400m以内から敵の防弾チョッキを貫通する完全消音狙撃銃」であったため、長距離での精密狙撃ではなく、中距離から短距離の狙撃、並びに近距離での銃撃戦を前提に設計されている。そのため、銃身長は比較的短く、20連マガジンを使ってのフルオート射撃も可能である。  夏美は玄関の扉を開けるためにショットガンを撃っていた。  広美は寝室に移動し、ベッドの下に隠れることにした。何とかVSSもベッド下に隠せたが、狙い定めることは窮屈過ぎて無理なようだ。  夏美はあのカードを手にしたとき、狼並みの嗅覚が備わった。狼は現存するイヌ科の動物の中で最大の動物である。また、他のイヌ科の動物とは、耳やマズルがあまり尖っていないこと、胴体が短く、尾が長いことで区別される。しかし、狼はコヨーテやゴールデンジャッカルなどの小型のイヌ科動物と近縁であり、それらの動物との間に生殖能力のある交配種を生み出している。狼の帯状の毛皮は通常、白色、茶色、灰色、黒色が混ざっているが、北極圏の亜種はほとんど白であることもある。  狼はイヌ属の中で最も協力的な狩猟に特化しており、大きな獲物に挑むための身体的適応や、より社会的な性質、高度な表現行動などがそれを示している。狼は、交尾したペアとその子供からなる核家族で移動する。子は性的に成熟すると、また群れの中での餌の奪い合いに応じて、それぞれの群れを形成するために離れることがある。また、狼には縄張り意識があり、縄張りをめぐる争いが狼の主な死亡原因となっている。狼は主に肉食性で、角を持つ大型哺乳類のほか、小動物、家畜、腐肉、生ゴミなどを食べる。単独の狼やつがいの狼は、一般的に大きな群れよりも狩りの成功率が高くなる。狂犬病ウイルスをはじめとする病原体や寄生虫が狼に感染する可能性がある。  中世ヨーロッパにおいては、狼はしばしば死や恐怖の対象として描写される。北欧神話では巨大な狼であるフェンリルが神々の敵として描かれている。童話の『赤頭巾』では、狼は赤頭巾を食べようとする悪役として描かれている。18世紀中旬には、「ジェヴォーダンの獣」と呼ばれる巨大な狼(大山猫とも)が出現したとされ、フランス中部地方を震撼させた。  広美はケータイを非通知設定にして平太にかけた。平太が人狼サイドの人間である可能性もある。  なかなか繋がらない。  ミシッ……ミシッと足音が近づいてくる。  キィィ……寝室のドアが開く音がした。   広美からは足しか見えない。闖入者はスノーシューズを履いている。見覚えのある靴だ。誰だったか?  漸く平太が出た。足音が間近で止まる。広美は息を止めた。      夏美はショットガンの銃口をベッドに向け、トリガーを絞った。ズガンッ!!銃声が響き、血で赤く染まった綿が舞い上がった。 「オォォォォッ!! ウゲッ!!」  夏美は広美の断末魔を聞いた。  何としてでもこの危機から脱出しなくちゃ!  夏美は突如、胸が締めつけられるような痛みを覚えた。心筋梗塞だろうか?  広美は死ぬときに敵を呪い殺すことができた。   苦しみは段々強くなり、夏美は瞳孔をカッと開いて事切れた。     邦彦は礼拝堂の前までやってきた。吹雪は止み、雲は晴れ星空が見えた。  大首は、日本の妖怪の一つで、空中などに巨大な生首が現れるというもの。  江戸時代の鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』にこの名の妖怪画があり、解説文によれば、お歯黒をつけた巨大な女の生首が雨の夜空に現れるものとされるが、これは伝承上にある妖怪ではなく、実際には当時の破戒僧を風刺した創作と指摘されている。  江戸中期の妖怪物語『稲生物怪録』を描いた絵巻『稲亭物怪録』(慶應義塾大学三田メディアセンター、広島県立歴史民俗資料館所蔵)では、物置の戸を開くと巨大な老婆の顔が出現したという怪異が、「大首の怪」の題で述べられている。同物語の主人公・稲生平太郎が顔を火箸で突いたところ、少しも動じることはなく、ねばねばとした感触だったとある。  江戸時代の怪談や随筆などの古書には、巨大な女の生首が現れたという事例が多数あり、ほとんどは女性で、既婚女性の証としてお歯黒を付けていることが特徴である。それらの正体は、人間の怨霊や執念が妖怪と化したもの、あるいはキツネやタヌキが化けたものといわれている。  山口県岩国の怪談集『岩邑怪談録』には「古城の化物の事」と題し、ある女が御城山という山で一丈(約3メートル)の女の生首に遭い、にこにこと笑いかけられたとある。江戸時代の俳人・堀麦水による奇談集『三州奇談』では、金沢で雨上がりの夜に月が顔を出し始めた頃、雷と共に大きさ6~7尺(約1.8~2メートル)ほどの大首が現れたとあり、塀の上に大きな首が乗っていたこともあるという。また、ある者がこの大首に息を吐きかけられ、その場所が黄色く腫れて具合が悪くなり、医者に薬湯を処方してもらって治ったという話もある。 『四谷怪談』の祖形といわれる文化時代の読本『近世怪談霜夜星』では、策略に陥れられて命を絶った女性の怨霊が、鎌倉の地で巨大な大首となって現れた姿が描かれている。  江戸時代よりさかのぼって平安時代にも、面女(つらおんな)と呼ばれる巨大な女の首の妖怪が出現したとある。恋川春町の黄表紙『妖怪仕打評判記』によれば、平清盛が福原に遷都した夜にも、この面女が現れたという。  邦彦の前に浮かんでる生首は広美のものだ。邦彦は「なんまんだぶー」と呪文を唱えた。そしたら、広美は姿を消した。  大首が消えると今度は天狗が現れた。  東京の小河内村では、多摩川にある大畑淵という大きな淵に住んでおり、人間に危害を加えることはなく、いつも岩の上に寂しそうに座り、物思いにふけっていたという。ある年の春に姿を消したが、その年の秋にまた姿を現し、その隣に1人の美しい天狗の娘が寄り添っており、彼女に膳椀を貸した者は、礼としてミミズが熱病の薬になることを教わったといわれている。また、大河内と氷川の境にある水根渓谷には山天狗と共によく現れ、曇りの日や雨の夜、振袖姿で傘をさし、激しい山崩れの音を立てたという。また、渓谷で人に激しい飛沫の滝を見せたり、激流の音を聞かせることもあるが、この際に道の畦に足を踏み入れて谷を覗き込もうとすると、真っ逆様に川に落とされてしまうという。  神奈川県津久井郡内郷村(現・相模原市緑区)では川天狗は姿を現すことはなく、夜に人が川で漁をしていると、大きな火の玉が突然転がって来ることがあり、これが川天狗の仕業とされていた。このような時は、河原の石の上を洗い清め、獲れた魚を供えるとこの怪異は失せたという。また人が川に網を放つと、川天狗も姿を見せずに網を放つ音を立てたという。誰もいないのに大勢の人声が聞こえたり松明の火が盛んに見えるものも、川天狗と呼ばれた。  埼玉県秩父市や山梨県の道志川でも神奈川と同様の怪異がある。民俗学者・伊藤堅吉による山梨県道志村の村史『道志七里』によれば、道志村では川天狗が川に住んで魚を好み、怪火を発するとある。ある川で人が死ぬと、その川のそばにある3本のトチの古木から青い火の玉を発したという。また、道志川のクソマタ淵という場所で子供が釣りをしていると、川天狗が黒い坊主姿で現れ「子供! 子供!」と呼んだという。夜に人が釣りをしていると、川天狗が網をうつ音を立てることもあり、その怪異に遭うと絶対に魚が釣れなくなったという。静岡県でも川天狗は川での漁を好むといわれる。  関東地方から中部地方にかけては天狗火と呼ばれる怪火が伝わっているが、神奈川県や山梨県の山間部では、この天狗火は川天狗によるものといわれている。  邦彦は『なんまんだぶー』と再び呪文を唱えた。  天狗は姿を消した。  礼拝堂に入ると死臭が漂ってきた。  犠牲者は広美と夏美だった。恐怖のあまりに声が出なかった。  死体が転がってるのは不気味だが、人狼はもうここにはやって来ないと推測した。  椅子に座ると睡魔に襲われた。すぐに夢の世界へと堕ちた。   『туман』  時刻は深夜1時を過ぎたところだ。拓哉は鼾を掻いて気持ち良さそうに寝てる。則夫は山小屋を散策することにした。  山小屋には様々な呼び方がある。  ヒュッテは、ドイツ語のヒュッテ (Hütte)が由来である。これは広義には小屋全般を指し、高山や高原にある山小屋も指す。  日本語で用いられる「ヒュッテ」という言葉は、1910年にオーストリア陸軍のレルヒ少佐が、日本にスキーを伝えた際に、導入された登山用語のひとつ。当時に導入されたドイツ語には、今でも登山・スキー用語として用いられているものも多い。  ハットは、英語で小屋を意味する語「hut(ハット)」。これはドイツ語のヒュッテと同語源である。なお、ファーストフードチェーンの「ピザハット」もPizza-Hutであって「ピザ小屋」の意味である。  則夫は自炊小屋のドアを開けた。宝箱を見つけた!鍵を使って宝箱を開けると手榴弾が入っていた。  🎁残り6箱  2時25分  邦彦はスノーモービルのエンジン音で目が覚めた。追手がすぐ近くにいる。邦彦は夏美の死体から防弾チョッキを剝いで、セータの下に着用した。さらに夏美のショットガン、軍用ナイフを奪った。  形勢逆転!  夏美の所有してるショットガンはモスバーグ M500だ。アメリカ合衆国のモスバーグ社が開発、生産する散弾銃である。装弾数は8発。邦彦は残弾を確認した。残り4発。  邦彦は礼拝堂のドアが銃でブチ破られていたことを思い出した。闖入者にとったら渡りに船だ。  邦彦は隠れる場所を血眼になって探した。キッチンの床下収納庫に隠れることにした。  頭師はスノーモービルで邦彦を追っていた。アイツの父親のせいで妻は死んだ。頭師は以前、神奈川県夕凪市に住んでいた。  老人ホームで介護士を務める妻は、かつて持っていた仕事への熱情を忘れ去り、無気力な日々を送っていた。施設は縄張り意識で縛られ、形式主義がはびこっていた。  ある日、妻は体調不良のため休暇を取り、医師の診察を受ける。医師から軽い胃潰瘍だと告げられた積は、実際には胃癌にかかっていると悟り、余命いくばくもないと考える。不意に訪れた死への不安などから、これまでの自分の人生の意味を見失った渡辺は、老人ホームを無断欠勤し、これまで貯めた金をおろして夜の街をさまよう。そんな中、飲み屋で偶然知り合った派遣社員の案内でゲームセンターやパチンコ屋、バッティングセンターなどを巡る。しかし、一時の放蕩も虚しさだけが残り、事情を知らない家族には白い目で見られるようになる。  その翌日、妻は老人ホームを辞めて自動車工場に転職していようとしていた部下の秋山佳代と偶然に行き合う。何度か食事をともにし、一緒に時間を過ごすうちに妻は若い彼女の奔放な生き方、その生命力に惹かれる。自分が胃癌であることを、佳代に妻が伝えると彼女は涙を溢した。  妻が入院している夕凪病院は入院患者たちの手足や身体を拘束し、治療を受ける必要のない患者にIVHという点滴を投与するといった行為が行われていた。このIVHとは、本来は自力で食事が摂れない患者に対して投与する高栄養の点滴であり、治療を受ける必要のない人にこの点滴を投与した場合、体内の栄養のバランスが崩れてしまい多臓器不全を引き起こすことがある。その他にも、手術を受ける必要のない患者に不必要な手術を行う、手術室ではなく一般病棟で手術などの非人道的な行為が行われており、これらは診療報酬目当ての不法行為であったと思われる。妻は賀来院長のモルモットにされた挙げ句、出血多量になり亡くなった。  頭師の最大の敵である賀来は既にこの世の者ではない。だから、頭師は息子である邦彦を倒すことに決めたのだ。  頭師は礼拝堂にやってきた。2体の遺体が転がっている。頭師はスナイパーライフルを手に入れた。 「賀来ゥッ! いるんだろぉッ!?」  頭師は怒号を上げたが、邦彦は姿を現さなかった。30分ほど探し回ったが、収穫は獲られなかった。  翌朝、6時。村人たちのターンだ。  邦彦は礼拝堂を出た。雪はすっかり止んでいた。  無数の足跡が丘に続いている。🐾  人間のものじゃない。 「近くに獣がいる?」   モスバーグ M500の残弾は4発。犬や猫であることを祈る他ない。  白樺の陰から頭師がVSSで邦彦の命を狙っていた。スコープの十字の中央に邦彦の頭が入った。  引金を絞ったが、邦彦の頭からは血が出なかった。 「どういうことだ!?」    頭師は叫んだ。  邦彦は銃弾を食らった衝撃で雪の上に倒れた。  敵は丘の上にいるようだ。  人狼メンバーは襲撃禁止のはず。狙ってるのは村人!?もしかしたら、ゲームの参加者以外の狙撃かも知れない。毛塚!?あいつには、俺を殺す動機がある。     7時、天気が崩れ始めた。再び暗雲が立ち込めている。月子は処刑された人間を知ることが出来る。死んだのは夏美と広美。夏美は人狼、広美はハンターだ。始末する人間は残り3人だ。  アパートは廃墟なので電気やガスは通ってない。  まだ、雪は降っていない。アパートの外に出た。  夜までに宝箱を見つけたい。  風が冷たい。フードを被った。こんなことになったのは沼男をイジメた罰かも知れない。沼男に会ったら頭を下げて謝りたい。  10分ほど歩いた。廃校が見えてきた。各教室を調べたが宝箱はなかった。給食室で宝箱を見つけた。箱を開けた。青く輝く石を見つけた。叩き割ると発動するらしい。だが、どんな魔法かは不明だ。 「やったー」  🔑残り2つ 🎁残り5箱    8時、原生林を北西方向に進んできた拓哉と則夫はガルボーイ(ロシア語で水色を意味する)山麓に到達し、本格的な登山準備に入る一方で、下山までに必要と思われる食料や物資を取り分け、余剰分は帰路に備えて残置した。11時、一行はガルボーイ山へ続く渓谷へと分け入った。適した場所で渓谷を北に越え、そこでテントを張ろうとしていたようだが、悪天候と吹雪による視界の減少によって方向を見失い、西に道を逸れてガルボーイ山の南側にあるイスクラ山(ロシア語で火花)へ登り始めてしまった。  彼らはやがて誤りに気づいたが、1.5キロほど下方の森林地帯に入って風雪を凌ぐのではなく、何の遮蔽物もない山の斜面にキャンプを設営することにした。木々の中でのキャンプ設営は容易だが、難ルートを踏破しトレッキング第3級の条件を満たす斜面での設営に決めたともされている。1人残された拓哉は腹が減って仕方がなかった。則夫はついさっき、熊に襲われて死んでしまった。則夫は最後の力を振り絞って手榴弾で熊を倒した。  拓哉は則夫の屍から鍵を1個奪った。  犠牲者 夏美🐺、広美💂、則夫👺  人狼チーム 2人死亡 生存者2人  村人チーム 1人死亡 生存者3人        正午、邦彦はレストランにいた。邦彦はソリャンカを食べていた。  ソリャンカは、ウクライナ料理の一つで、香辛料を多用した味の濃いスープである。ピクルス、オリーブ、ケッパー、肉や魚の燻製などを汁物仕立てにすることから、「飲むオードブル」とも呼ばれる。  ソリャンカは、ボルシチと並び東欧を代表する料理であり、左岸ウクライナとスロボダ・ウクライナの農村に伝わるスープである。19世紀までは「セリャーンカ」と言った。料理の決め手となるキュウリの塩漬けの漬け汁を使うことから二日酔いに効くスープとして好まれた。  ソリャンカの歴史は新しく、近世にウクライナのボルシチとロシアのシチーの融合から生まれたスープだと考えられている。18世紀後半のロシア女帝エリザヴェータと関係が深かったウクライナ・コサック出身のロズモーヴシクィイ家は、ロシアの朝廷にウクライナ料理を流行させた。その結果、ソリャンカはロシアの貴族によっても好まれるようになり、ロシア料理の一つとしても知られるようになった。ロシアにおいては「ソリャンカ」は訛って「サリャンカ」、あるいはサリャーンカとも発音する。ロシアではザクースキの温菜として、ブイヨンを使わずに、刻んだ材料を耐熱容器に入れてパン粉とパルメザンチーズをふりかけて焼いたキャセロール仕立てにすることがある。また材料はほぼ同じでも穀類を加えたスープはキュウリの塩漬けのスープ(ラッソーリニク)と呼び、区別する。  このスープは諸国にも伝わり、今日ではドイツ (とくに旧東ドイツ)や東欧諸国などにおいても食べられる。ソビエト連邦軍が東ドイツに駐留していたとき、レストランのメニューに載っていた定番料理「ゾルヤンカ」(ソリャンカのドイツ語の呼び方)を好んだことから、缶詰にして売るようになった。 東ドイツで育ったドイツ首相アンゲラ・メルケルは、ソリャンカが好きだとインタビューで語っている。    邦彦が食べてるのは肉のソリャンカだ。  塩漬けのキュウリをブイヨンで煮た鍋に、肉類(牛肉、ハム、ソーセージ、鶏の胸肉から組み合わせまたは単体)のほか、トマトとタマネギ、オリーブ、風味づけにケッパー、オールスパイス、パセリやイノンドを細かく刻んで加える。ブイヨンをつぎ足し、煮詰めないように注意しながら短時間加熱する。  店内はポカポカして温かい。頭師から聞いた話を思い出した。この辺で起きた事件だ。  牧場の牛などを襲いに来たオオカミを、中年の女性が手傷を負いながら斧で撃退した。  この女性の村では牛や羊を放牧しており、女性は子牛を襲っていたオオカミを追い払おうとしたが、逆に襲いかかられたという。「オオカミが口を開けて飛びかかってきた。爪が足に食い込んだ」と女性は振り返る。  オオカミは女性の腕にかみついて振り払えなかったため、女性はかみつかれたまま、もう片方の手に持った斧でオオカミの頭に一太刀を浴びせたという。絶命したオオカミの写真を見る限り、その傷の深さから女性の一撃にかなりの破壊力があったことが見て取れる。  地元では、屈強な大人でも恐れるオオカミを、いかにして56歳の女性が撃退することができたのかが今でも話題となっており、村人の中には斧の使い方を練習し始めた人もいるという。  銃で撃たれなかったんだから、オオカミなんて怖くない。  外でアォォーッ!と、雄叫びが聞こえた。  見慣れた男が店内に入ってきた。 「やぁ」   「沼男、生きていたのか?」  沼男は邦彦の隣りに座った。  邦彦は礼拝堂での出来事を話した。 「その礼拝堂なら俺も行きましたよ」  邦彦は訝しそうに沼男を見た。こいつが夏美や広美を殺したのか? 「冷暖房が効かないから、すぐに出ました」 「そうだったのか」 「ずっと黙ってたけど、俺、病気なんです」 「何の?」 「白血病です」  急性白血病の初発症状は、発熱・貧血・出血傾向・骨痛・ぐったりしているなど多岐にわたり、特徴的な症状はない。 血液検査では血液細胞数の低下のほかに、本来血液中に存在しないはずの芽球がみられることがある。症状や血液検査から白血病が疑われる場合はさらに骨髄検査が必要になる。 「最初は風邪みたいな症状だったんです。夏目雅子がなったことで有名だけど、まさか自分がなるなんて思ってもなかった」 「このゲームに勝て! そうすりゃおまえは助かる」 「あの〜、邦彦先輩って人狼ですか? 村人ですか?」 「教えるわけねーだろ」 「そうですよね〜」  邦彦は会計を済ませ、店を出た。  沼男は食事を終えていたがついてこなかった。  何でだろうか?    沼男は悪魔のカードを睨みつけていた。昼間には不用意に歩くもんじゃないなと思った。今は狩りは出来ない。邦夫は銃を所持していた。カバーがしてあったが、多分ライフルだ。トイレに宝箱がないか調べたがなかった。  レストランから出た。  🔑残り3つ  平太は西にあるスーパーの近くにいた。日本刀を宮本武蔵みたいに帯刀していたら、職質されるかも知れない。クリーニング用の袋に丁度入るからそいつに入れてある。買い物をしようとしたがロシア語が話せないので躊躇した。昨夜は凍死するかと思った。視界が悪いから宝箱を探すことはできなかった。電話ボックスに入って寒さを凌いだ。外よりはマシだが、メチャクチャ寒かった。寒さのせいで顔は鼻水でグチャグチャだ。寒くて空気が冷たいとき、冷たい空気は、鼻を通ることで温かくなって肺に送られる。 鼻の中で出た水分によって、適切な温度や湿度に調整される。このとき出た水分が鼻水になる。耳鼻科医なら知っていて当然だ。  電子手帳を持ってきた。ロシア語も調べられる。無性に暖かいものが食べたかった。だが、料理できる環境がないので、自販機でコーンスープを買った。一気に飲み干した。体が温まって生き返る気分だった。  運良くイートインスペースがあったので、そこで仮眠を取ることにした。平太は夜の6時までここで時間が過ぎるのを待つことにした。      午後3時、月子はキャンプにやってきた。イエローカラーのテントが設営されていた。⛺  テントの近くにミンチ状態になった則夫が転がっていた。腸がはみ出している。月子は雪の上に吐瀉物を撒き散らした。  すぐ近くを流れる小川からルサールカが現れた!きっと、則夫を冥界に連れていく為に現れたんだ。  ルサールカは、スラヴ神話に登場する水の精霊。精霊というよりは幽霊のようなもので、水の事故で死んだ女性、洗礼を受ける前に死んだ赤ん坊などがルサールカになるという。  ルサールカの名前は、古代スラヴ人のルサーリイという祭りに由来する。ルサールカは豊穣神としての一面を持ち、民間信仰の対象であった。18世紀や19世紀のロシア帝国時代にも、ロシアやウクライナを中心に、ルサールカに対する農耕儀礼が行われていた。ウクライナやベラルーシを含むロシア帝国を中心に記述する。  昼間はボサボサの髪で森の中をうろつきまわり、畑を飛び跳ねる。美貌と優しい声や、歌や踊りで人間の若い男を魅了した。この邪悪なニンフに魅了された人間は、水の中に引きずり込まれたり、水中に突き落とされた。  どことなく、バイオハザードシリーズのミラ・ジョヴォヴィッチに似ている。  ルサールカは「ルルル〜♪」と歌った。 「女の私には意味がないぞ!?」  月子は青い石を徐ろにジャンバーのポケットから出すと、地面に叩きつけた。なかなか割れないのでイライラする。   ルサールカは月子に向かって爆走してきた。  月子は再び青い石を地面に叩きつけた。粉々になった。炎が突如として現れ、ルサールカを火だるまにした。 「ウギャアッ!!」  断末魔を上げてルサールカは絶命した。    午後5時  マフカは洞窟の中でルサールカの死を悼んでいた。  冥界ではマフカのことを実の娘のように可愛がってくれた。マフカは20年前、5歳のときに麻疹で亡くなった。冥界では人間界と同じように年を取る。マフカはあるとき、ルサールカにどうやったら元の世界に戻れるか訪ねた。 「魔王に認められないといけない」 「どうすればいいの?」 「悪魔レベルが100にならないと戻れない」  現段階のマフカのレベルは50だ。ルサールカは78だった。  突如、頭上で雷鳴が轟いた。  背後に月子が立っていた。月子は洞窟の近くの祠で緑色の魔石を手に入れていた。    🔑残り1つ 🎁残り4箱 「人間の分際で! グワッ!!」  月子は既に魔石を割っており、マフカは稲妻に体を貫かれて呆気なく死んだ。  マフカが死んだことによりゲームは強制終了し、誰も報酬を手に入れることはなかった。      
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