2019年11月

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2019年11月

 11月15日  ロシアから帰ってきた邦彦は、自宅のソファでハンガリー民話を読んでいた。  昔、ドナウ川を越えた場所に貧しい老人と娘3人、それに息子ヤーノシュが暮らしていた。老人は亡くなる際に「何者であっても3人姉妹を求めたら逆らうな」と言い残した。数日後、1匹目の龍が現れ長姉を奪い去った。翌日、さらに巨大な龍が来て次姉を奪い去った。3日目にはさらに大きな龍が来て末姉を奪い去っていった。  ヤーノシュは悲嘆に暮れ、あてもない旅に出た。ある町に着くと、王とその家族が続けて亡くなったため、一人残された王女も含めて皆が長い間喪に服していた。ヤーノシュは城に行き、給仕として仕えた。21歳になった時、ヤーノシュは王女からの求婚に応じ、この国の王となった。王妃は、宮殿内の禁制の間には自分しか入れないため、自分が教会に行く間も入るなとヤーノシュに忠告した。ある日、ヤーノシュは王妃だけを教会に行かせ、1人で禁制の間へ入ろうとしたが扉が開かない。じきに室内から聞こえてきた声に教えられて、ヤーノシュは鍵を見つけて禁制の間に入った。そこには石板で蓋をされた石桶があり、中から水を求める声がした。ヤーノシュが水ではなくぶどう酒を与えるたびに、石板を留めていた箍が外れていき、石板を押し上げて怪物が飛び出してきた。これこそが封印を破って出てきた恐るべき龍、フェルニゲシュであった。フェルニゲシュはヤーノシュを翼で叩きのめし、城から飛び出すと、教会から帰る途中の王妃をさらって飛び去った。  ヤーノシュはフェルニゲシュがこの地域の龍王であることを知り、国の統治を家来に任せて、フェルニゲシュと王妃を探すべく旅立った。辿り着いた不思議な世界には長姉がいた。その夫である六つ頭の龍は、ヤーノシュから事情を聞くと、義理の弟であるヤーノシュに協力することとし、彼を自分の兄である龍に引き合わせた。そこには次姉がいた。次姉の夫である、12の頭を持つ龍もヤーノシュに協力することとし、弟の龍とヤーノシュを一緒に背中に載せて兄の龍の所へ行った。黒龍フェルニゲシュの領地と隣り合っているその龍の領地に、末姉がいた。末姉の夫である24の頭を持つ龍は「黒龍フェルニゲシュは自分達の首領ではあるが皆が不快に思っており、自分達が総掛かりでも倒すことはできず、かろうじて石桶に閉じ込めた」と話した。さらに六つ頭の龍はヤーノシュに馬を貸し、王妃は毎朝8時に黒龍の城にある井戸端に来るからそこで救うべきだと助言した。  朝8時に王妃が井戸端に現れると、待っていたヤーノシュは彼女を馬に乗せて脱出した。しかし、厩にいる5本脚の馬が暴れだす声を聞いた龍王が気付き、その魔法の馬でヤーノシュに追いついて王妃を奪い取った。翌日、ヤーノシュは12の頭を持つ龍から借りた馬で井戸に向かい、再び王妃を奪い返したが、黒龍にまたも奪い返されてしまった。24の頭の龍が持つ馬でも同様だった。  24の頭の龍は、5本脚の馬の対となる馬の居場所を王妃にフェルニゲシュから聞き出させるようにと、ヤーノシュに助言した。黒龍は王妃が尋ねるたびに拒否したが、ついにその6本脚の俊足の馬の居場所を教え、王妃がそれをヤーノシュに伝えた。3匹の龍の計画どおり、ヤーノシュは再び王妃の奪還に挑み、フェルニゲシュに追いつかれると体を切り刻まれて殺された。王妃は泣くのをこらえながらフェルニゲシュに懇願して、ヤーノシュの死体が入った袋を馬にぶら下げることを了承させた。馬は3匹の龍が待つはがね工場に向かい、龍達は死体が入った袋を馬から下ろすと魔法の力でヤーノシュを生き返らせた。  ヤーノシュは、フェルニゲシュが言った「火の海の中にある7の7倍の島」に向かい、そこに住む魔女が所有する「6本脚の馬」を、魔女が次々に出してくる困難を突破して手に入れた。馬を追ってきた魔女が龍達の領地に侵入しようとしたが、龍達が食い止めた。  ヤーノシュは再び王妃を奪還すると、6本脚の馬で逃走した。フェルニゲシュはまたも追ってきたが5本脚の馬では追いつけない。フェルニゲシュの拍車で痛めつけられた5本脚の馬は、兄弟である6本脚の馬が言うのに従い、急降下してフェルニゲシュを振り落として死なせた。ヤーノシュと王妃は2頭の馬で龍達の元へ戻り、礼を述べて国に戻った。  柱時計を見た。もう、午後11時だ。そろそろ寝よう。  夕凪電工で働く邦彦には恋人の千春がいるが、彼は経済的な理由で千春との結婚に踏み切れずにいる。夢の中で千春に刺し殺される夢を見た。  11月17日  昼休憩のとき邦彦は、佐野から絶望的なことを告げられた。 「受注減算につき、君との契約を今月までにしたい」  頭の中が真っ白になった。千春と結婚が出来なくなる。 「どうして僕なんです!?」 「能力が低いからだ。毛塚なんかおまえより後から入ったのに頑張ってるぞ。次のところで頑張らんと、また地獄に落ちるぞ?」  邦彦は毛塚に負けたことがショックでしばらく、何も喋れなくなった。  邦彦は職場まで自転車で通っていた。  途中で尿意を催し公園に立ち寄り、公衆便所に入った。大までしたくなり、個室に入った。棚のところに茶封筒が置かれてある。きっと誰かが忘れたんだ。茶封筒の中には10万入っていた。周りには誰もいない。邦彦はネコババにすることにした。 「神様っているんだな?」  もしかしたら不幸なときにしか現れないのかも知れない。    翌日は会社に行く気がせず、風邪を引いたと仮病を使い休んだ。  11月末までに職場の誰かが死んだら、リストラを免れるだろうか?例えば佐野が交通事故に遭って亡くなったら?いや、俺のクビを決めたのは佐野だけじゃなく、社長とか専務もだろう。上層部の連中が殺し屋にマシンガンで蜂の巣にされたら助かるだろうか? 母親の鈴子はスーパーで働いていた。鈴子にはまだ、仕事を失うことを話せずにいた。家から追い出されるかも知れない。かつて、飲み会で遅くなったとき鈴子に閉め出されたことがあった。冬の寒い日で、凍え死ぬかと思った。  ハローワークに出かけ、担当者にリストラされるってことを相談してコンピューターで仕事を検索した。横浜にあるゲーム会社でクリエイターを募集してる。未経験者歓迎となっている。  父親の誠は邦彦を医者にするべく英才教育を施した。カエルやネズミの解剖をするように中学生の時に言われたこともあった。誠は逃げ出して、誠からバットで尻を叩かれた。あの頃はいつか、親父を殺してやると思っていた。邦彦は小学生の時に祖母から買ってもらったスーパーファミコンソフト『かまいたちの夜』に夢中になった。  ストーリーはこんな感じだ。大学生の透は、ガールフレンドの真理にスキー旅行に誘われ、彼女の叔父である小林夫妻が長野県で経営しているペンション「シュプール」に滞在する。友達以上・恋人未満のまま進展しない真理との仲を縮めるべく、今回の旅行に意気込む透。  吹雪が止まぬ中、シュプールにはアルバイトの久保田俊夫・篠崎みどりのほかに、OL3人組の可奈子・亜希・啓子、関西人の社長一家の香山夫妻、フリーカメラマンの美樹本洋介など様々な人物が宿泊し、和気あいあいと自己紹介をしていく面々。  しかし宿泊客の中には、その場に似つかわしくないサングラスをかけて人目を避けているヤクザ風の田中一郎がいて、宿泊後すぐに部屋に引きこもって以降、食事なども取らずに誰とも顔を合わそうとはしなかった。  夕食後、OL3人組の部屋で「こんや、12じ、だれかがしぬ」と書かれた手紙が発見され、その場では誰かのイタズラだと一蹴される。夜9時を過ぎた頃、2階からガラスの割れる音がしたため、一同は2階の部屋を調べると田中の部屋でバラバラになった惨殺死体を発見する。部屋の窓は割れたまま開け放たれており、犯人の姿はなかった。  猛吹雪によって外に出ることもできず、全員が完全に閉じ込められた形になった。しかも電話線も切断され、携帯電話も圏外のために警察を呼べないクローズド・サークルとなってしまう。はたして、この殺人はこの地方に伝わる妖怪 かまいたちによるものなのか?  見えない犯人の影に脅える宿泊客たちは、お互いに疑心暗鬼に駆られていき、彼らをあざ笑うかのように第2・第3の殺人が起きていく。愛する真理を守るべく、透は事件解決のために真犯人探しに乗り出す。    複数のエンディングが用意されており、最初から遊べるメインシナリオは「ミステリー編」であるが、その中でクレジットの流れるエンディングを一回以上見ることで、その後アナザーストーリーとしてオカルトタッチな「悪霊編」、サスペンスタッチの「スパイ編」などの新たなシナリオへの分岐が現れる。  それらのエンディングをトゥルーエンディング、バッドエンディング含め全て読み終わるとセーブデータ(栞という形になっている)がピンク色に変わり、さらにセルフパロディである「Oの喜劇編」、「暗号編」が追加される。  さらに、あるシナリオに隠された「チュンソフ党の陰謀編」をクリアすると、同社の『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』のパロディである「不思議のペンション編」が加わる。  高1のときにゲームクリエイターになりたいことを鈴子と話していたことを誠に聞かれて、鳩尾を思い切り殴られた。夕食に食べたポトフが胃から込み上げてきた。 『貴様! どういうことだ!? 医者にはならないのか!? あんなもんにのめり込みやがって!!』  親父によって夢は叩き潰され。父親が客員教授として勤務しているD大学に入って、つまらない青春を6年間過ごした。誠も死んで自由になった。  千春は横浜に住んでいた。軽自動車アルトを飛ばしてハマに向かった。千春はハマの介護施設でヘルパーとして働いていた。運のいいことに彼女も今日は休みだった。  彼女は実家暮らしだが、両親との仲はあまりよくなかった。山下公園近くにあるファミレスで落ち合った。11時だったが、早めに昼飯を取ることにした。邦彦はハヤシライス、千春はカルボナーラを頼んだ。  千春は怖い話をはじめた。 「ある大学生が、古ぼけたアパートに引っ越してきたんだって。部屋を見渡すと壁に中指が全部入りきる程度の穴が開いていたらしい。覗いてみると隣の部屋まで繋がっていて、いつ見ても部屋は真っ赤だったんだって。不思議に思って大家に尋ねたら、大女が一人住んでいて、その女は病気で目が真っ赤だったんだって。実はその女がずっとこちらの部屋を見ていたらしいよ」  邦彦は以前は迷信とかあまり信じなかった。小さい頃、鈴子が葬式の花輪を見たら親指を隠さないと親の死に目に会えないって言っていたが、信じなかった。が、ロシアで生死をかけた怖い体験をしてからは都市伝説などを信じるようになった。  太ったウエイトレスが頼んだものを持ってきた。  味はマズマズだった。    昼食後、千春の案内でハマをドライブした。  13時前にアトラクションパークのコスモワールドにやって来た。  特徴としては入園が無料である事と、アトラクション毎に料金を支払うチケット購入制となっており、数少ないフリーパス(乗り放題)と呼べるチケットが存在しない事である。また、エリア内ではショップなども営業している。  最初はブラーノストリート・ゾーンを巡った。  イタリア・ブラーノ島にある水辺のカラフルな町並みをイメージテーマに展開。ハイテクを駆使したホラーハウス「恐怖の館」や、カード迷路「ぐるり森大冒険」、マイナス30度の極寒が体感できる「アイスワールド」などに入った。 「凍死するかと思った」  千春はブルブル震えてる。    次にやってきたのはワンダーアミューズ・ゾーン。  水と緑にあふれた空間の中に、前衛的でアートフルな建築デザインが融合している。  水中突入型ジェットコースター「バニッシュ」、 落とし込み世界最大の急流すべり「クリフ・ドロップ」などの絶叫マシンに乗り、最後に世界最大の時計型大観覧車「コスモクロック21」に乗って横浜の街並みを眺めた。太陽が西に傾き始めていた。  隣に座っていた千春は突然、接吻してきた。 『ORIGINAL LOVE』の『接吻』のサビの部分を邦彦は思い出していた。     長く甘い口づけを交わす  深く果てしなくあなたを知りたい  fall in love 熱く口づけるたびに  痩せた色の無い夢を見る    千春は邦彦の太腿を撫でてきた。彼のペニスは勃起した。早く千春を抱きしめたいと思った。  横浜赤レンガ倉庫で夕食を取った。  2人ともビーフストロガノフを食べた。  赤レンガ倉庫(新港埠頭保税倉庫)は、明治時代の終わりから、大正時代の初めにかけて建設された。  当時の横浜港は、1859年(安政6年)の開港から半世紀を経て、近代的な港湾の整備が横浜市にとって急務となっていた。1889年(明治22年)には第1期築港工事が始められ、大桟橋、東西防波堤などの整備が進められた。これに続く1899年(明治32年)には、横浜税関拡張工事の名目で大蔵省が主導して、第2期築港工事が始められた。  第2期築港工事は、前期と後期に分かれる。前期工事は、税関前の海面を埋め立てて、係船岸壁を有する埠頭の建設を主に進めた。係船岸壁とは船が直接接岸できる岸壁で、その建設は日本初の試みであった。1905年(明治38年)には埋立が完了したが、同年より引き続いて始められた後期工事は埠頭の拡張と陸上設備(上屋、倉庫、鉄道、道路)の整備を目指した。赤レンガ倉庫は後期工事の中で、国営保税倉庫として建設された。後期工事には、日清戦争後に急伸し東洋最大の港となっていた神戸港や大阪港に対抗するため、横浜市も約270万円の費用を負担して、築港の完成を急いだ。これは横浜市が国に働きかけて実現させた事業であり、国と地方の共同事業の嚆矢となった。  赤レンガ倉庫の設計は、妻木頼黄・部長率いる大蔵省臨時建築部によって行われた。妻木頼黄は、馬車道にある横浜正金銀行本店(現、神奈川県立歴史博物館)の設計もした、明治建築界三巨頭の一人である。2号倉庫が1911年(明治44年)、1号倉庫が1913年(大正2年)に竣工した[3]。第2期築港工事は1914年(大正3年)までに完成し、ここに税関埠頭、現在の新港埠頭が生まれた。  全長約150メートル、背面に鉄骨造ベランダを持ち、日本初の業務用エレベーターや避雷針、消火栓を備える赤レンガ倉庫は、国営保税倉庫建築の模範となるとともに、組積造技術の最高段階を示す建築とされる。2号倉庫はレンガとレンガの間に鉄を入れる補強が施されていたことで、1923年(大正12年)に発生した関東大震災でも、被害は1号倉庫の約30%損壊にとどまった。なお、当時のエレベーターは現在も1号館横に展示されており、重要科学技術史資料登録台帳に第00027号として登録されている。  赤レンガ倉庫を含む新港埠頭は、1942年の横浜港ドイツ軍艦爆発事件や1945年の横浜空襲での破壊を避けられ、第二次世界大戦終戦後の1945年(昭和20年)に、連合国軍に接収され、横浜税関に連合国軍最高司令官総司令部が置かれた(後に第一生命ビルへ移転)。  新港埠頭のほかにも、横浜港は大部分が連合国軍に接収されて使用不能となり、横浜の復興を遅らせる原因となった。新港埠頭は、1954年(昭和29年)に商船の臨時使用が許可され、1956年(昭和31年)に1号から6号岸壁と赤レンガ倉庫を含む上屋の接収が解除された。接収解除後は、貿易の急増によって入港船舶トン数、取扱貨物量など、すべての数値が戦前の記録を更新した。  しかし、貨物のコンテナ化が進展して他の埠頭に主役が移り、1975年(昭和50年)頃には取扱貨物量が激減。それ以降、アクションドラマや映画のロケ地として頻繁に利用されるようになる。特に1986年(昭和61年)から翌年にかけて放送されたテレビドラマ「あぶない刑事」のエンディングで、赤レンガ倉庫がロケ地とされた事により注目を浴び、倉庫への落書きなども横行した。1989年(平成元年)には倉庫としての役割を終えた。    夜になって2人はベイツ『HAREM』という小さなホテルに泊まることにした。そこは増上寺大輔(ぞうじょうじだいすけ)という青年が一人で切り盛りする小さな宿で、彼は隣接した丘の上に建つ屋敷に母とふたりで住んでいるということだった。増上寺はどことなく北村一輝(きたむらかずき)に似ていた。映画『龍が如く』で主演、桐生一馬(きりゅうかずま)を演じた俳優だ。  邦彦たちは102号室に泊まった。 「良い身体だな」  ボソリと千春の耳元で邦彦は囁くと、耳の中へ舌を侵入させる。執拗に舐められて、喘ぎ声を溢す千春を、嘲笑うような視線が射抜く。  千春はその視線がたまらなかった。  そう思ったのと同時に舌が抜かれた。 「感じているのか?」  その低い美声に下腹部が熱くなる。  膣から漏れ出た透明な液体でビチョビチョに濡れた秘部に邦彦の無骨な指が入ってくる。 「アンッ……もっと……気持ちいいの……下さい」  千春は邦彦から視線を逸らし、思わず震えた唇の隙間から小さく懇願した。  邦彦は反り立ったペニスにコンドームを装着し、千春のナカに入った。  騎乗位スタイルで2人は交わり、千春も邦彦も絶頂を迎えた。    隣の101号室にはキロスと恵梨香が泊まっていた。  情事を終えて恵梨香がシャワーを浴びていると何者かが入ってきて彼女を刺殺した。「母さん、血まみれじゃないか!」と叫ぶ大輔の声が響く。大輔は殺人を隠蔽するために浴室を清掃し、死体と所持品を母親の車のトランクに押し込み、近くの沼まで運ぶ。車は恵梨香を乗せて沼に沈む。    19日の昼過ぎ、伝馬(でんま)って男が『HAREM』を訪れた。伝馬は國村隼(くにむらじゅん)に似ている。彼は101号室に隠しカメラを仕掛けていた。恵梨香がキロスの肉棒をフェラチオするシーンや、シックスナインするシーンが収められていた。衝撃的なのはフランケンシュタインの覆面をした中年の女に恵梨香がダガーナイフで腹を刺されて死ぬシーンだ。 「このフランケンシュタインはアンタのおふくろさんでしょ?増上寺さん」  そのカメラは撮影も再生も出来る優れものだ。  伝馬に全てを暴かれた大輔の顔は青ざめていた。  300万渡せば警察沙汰にはしないと、伝馬は大輔を脅した。  大輔の母親は副業で殺し屋を営んでいた。彼女はどことなく、『生卵〜赤まむし〜』の研ナオコに似ている。    恵梨香を殺すように依頼してきたのはキロスだ。  キロスは何者かに年末までに5人を殺すように脅されていた。キロスは世界的に有名な自動車メーカーの御曹司だ。リストラやリコール、整備不良における事故死など問題は山積みだった。被害者遺族、職を失った元従業員……キロスを憎んでいる者は大勢いた。  キロスは恵梨香の死体をスマホで撮影し、写真を脅迫者に送った。非通知で電話があり、『残り4人、キッチリ殺せよ?』と脅迫者は言っていた。    19日の17時、夕凪駅の近くに住む、朝倉一人(あさくらかずと)小百合(さゆり)夫妻は約束の時間になっても恵梨香が来ていないことを知り、2人で恵梨香を探すことになる。  一人は小泉孝太郎(こいずみこうたろう)、小百合は佐藤江梨子(さとうえりこ)に似てる。  一人は労働基準監督署に勤務してる。小百合は派遣会社『イカロス』で採用担当者をしている。  一人、小百合、恵梨香の3人は幼馴染で鬼ごっこやトランプなどをしてよく遊んだ。  そこに、恵梨香の父である宇喜多に雇われた私立探偵の高峰夏樹(たかみねなつき)も加わる。高峰は柴田恭兵(しばたきょうへい)に似てる。『HAREM』を訪れた高峰は増上寺に不審を抱き、そのことをケータイで一人に伝えたのち、丘の上の屋敷に上がり込むが、部屋から飛び出して来た増上寺の母親らしき人物に殺されてしまう。 「アンタはユージにはなれないね……」  一方、一人と小百合は夕凪警察署刑事課の波多野将人(はたのまさと)を訪ねるが、助けを得ることはできない。波多野は2人に「増上寺の母親は10年前に死んだ」と告げる。波多野は菅田将暉(すだまさき)に似ている。  2人は手がかりを求めて『HAREM』に乗り込む。小百合が色仕掛けで増上寺を引き留めている間に屋敷に忍び込んだ一人は、地下室で増上寺の母親の干からびた死体を見つける。その瞬間、女装した増上寺が刃物を振りかざして襲いかかってくるが、追いかけてきた邦彦と伝馬に取り押さえられる。  精神科医の矢島雷蔵(やじまらいぞう)は拘禁中の増上寺を診察し、関係者の前でその結果を説明する。矢島は『太陽にほえろ!』でボギー刑事を演じた世良公則(せらまさのり)に似ていた。  母親と増上寺は2人だけの世界で長く暮らしてきたが、10年前に母親が愛人を作ると増上寺は自分が見捨てられたと感じ、母親と愛人を密かにノコギリで殺害していたのだった。それ以来、増上寺の心の半分は彼の母親に占められ、彼は自分自身と母親のふたりの人格を持って生きてきたのである。息子を女性から遠ざけようとする母親の人格が恵梨香を殺したのだった。  その頃、留置場でじっと座っている増上寺の心は完全に母親に乗っ取られていた。  11月20日  安倍晋三内閣総理大臣の通算の首相在任期間が2887日に達し、桂太郎を抜き記録更新して憲政史上最長任期の首相となった。  2016年リオ五輪卓球男子シングルス銅メダリストの水谷隼(木下マイスター東京)から現金を脅し取ろうとしたとして、警視庁池袋署が恐喝未遂の疑いでいずれも駒澤大学3年の男2人(いずれも20歳)と19歳のアルバイトの女を逮捕。調べに対し男一人は容疑を否認している。    同日、午後3時……邦彦は相模湾沖にいた。  発豪華客船アンビシャス号に乗り組んでいた邦彦は、漂流船との衝突事故の際に小型ボートで脱出する。のちに別の船に救助されるが、そこには多数の動物が積まれ、異様な外見の人間が乗っていた。やがて邦彦は船長と衝突して目的地である島に降ろされてしまい、そこで白髪の男に会う。  もう午後6時近い。桟橋を渡り、鬱蒼(うっそう)たる森の中を歩いた。 「ここどこなんです?」  邦彦は恐る恐る尋ねた。 「(ふくろう)島だ」  白髪の男は、梟島が『生物学研究所』のようなものだと説明する。邦彦は、男の正体が、残酷な動物実験を理由に学界を追放された宇喜多博士だと気づく。博士は、この島でさまざまな動物を人間のように改造し、知性を与える実験を行なっていた。島には多数の獣人がおり、人間を模範とする「掟」を守りながら生活していた。しかし、邦彦は惨殺された動物の死骸などを目撃し、掟を破った獣人が存在することに気づく。  翌日の昼過ぎ……宇喜多博士が手術中の獣人に鋭い爪で腹を切り裂かれて殺害され、この事件をきっかけに獣人たちは人間らしさを失って獣と化してゆく。博士の助手であり博士の支配者の座を狙った葛城も爪で頸動脈を切り裂かれて死ぬ。ただ1人の人間となった邦彦は命の危険を感じて島を脱出する。しかし生還した彼を待っていたのは、人間社会に対する恐れであった。邦彦は、街をゆく人々に獣人の影を見、そして彼らも獣に化すのではないかという不安にさいなまれつつ、人目を避けて暮らすのだった。  25日早朝、つくばの物理化学者、横溝雷蔵(よこみぞらいぞう)が筑波山近くの遺跡で、上半身を潰された状態の死体で発見される。横溝は俳優の染谷将太(そめたにしょうた)に似ている。容疑者は現場から逃げてゆくのを目撃された横溝の妻の理恵であり、彼女は義兄の(るい)とその友人の連城六郎(れんじょうろくろう)警部に信じられない話を語り出す。  理恵は田中麗奈(たなかれな)、塁は千原ジュニア、連城は津田寛治(つだかんじ)にそれぞれ似ている。  物体を瞬時に別の場所に移動させる物質電送機の研究開発に没頭していた横溝は、試行錯誤の末にスプーンや帽子などを用いて電送実験を成功させると、ついには自身を使って電送の人体実験を行った。しかし、物質電送機内にクモが紛れ込んでいたため、電送の最中に両者が交じり合い、横溝は頭と片腕がクモで、残りが人間という異形の体になってしまい、実験室から飛び去ってしまった。  30日  若く美しい、相武千春は、交通事故で顔全面に火傷を負い、凄惨な形相になってしまった。今は森に囲まれた郊外の屋敷で、仮面を着け、人目を避けて、父親と父の助手の女性、若葉と共に暮らしている。父の相武凱は高名な医師で、娘の顔を元通りにするために、他の若い女性の顔の皮膚を切り取って移植しようとする。凱は『ルビーの指環』で有名な寺尾聰(てらおあきら)に、若葉は常盤貴子(ときわたかこ)に似ていた。    むろん法的にも倫理的にも不可能な話で、凱は若葉を使って女性を誘拐し、麻酔で眠らせてメスで顔面の皮膚を切り取り、千春の顔に移し替える。  千春は元通りの美しい顔を取り戻した。
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