2019年12月

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2019年12月

   千春が安堵したのもわずかな期間で、移植した皮膚は次第に崩れ落ち、最後には元のような醜い顔に戻ってしまい、彼女はまた仮面を着けなくてはならなかった。その間、顔の皮膚をはがされた方の娘は包帯でぐるぐる巻きにされたまま2階の窓から飛び降り、死んでしまう。千春は孤独である。実験用に飼われているモルモットたちだけがわずかに心を慰めてくれる以外は、屋敷の中には話し相手もいない。凱博士は、千春のためと言うより、自分の研究のためにこんな事をしているのだろうか? 父親は無残な顔の娘に嫌悪しか示さない。     3日の夜、千春は自宅で録画した『同期のサクラ』を見ていた。主演の高畑充希(たかはたみつき)は深津絵里を彷彿とさせる。10月からはじまったドラマで、いよいよ佳境だ。  警察は女性の行方不明事件を受け、不良傾向のある刑事、連城を使っておとり捜査に乗り出した。5日の夜、連城は相武凱に捕らえられ、手術室に運び込まれる。しかし千春は若葉を刺殺して連城を逃がし、犬の入っていた檻を開け放つ。凱は外に出た猛犬たちにかみ殺され、血みどろの死体となって横たわった。千春は仮面を着けたまま、夜の森の奥へゆっくり歩み去る。  12月7日  三菱電機の新入社員が同年8月にパワーハラスメントを苦に自殺していた件で、加害者の上司がこの日書類送検された。これらのことが影響し、同社は2年連続でブラック企業大賞を受賞。  神奈川県の行政文書が記録されたハードディスクドライブがネットオークションに転売されていた問題で、データ廃棄企業のブロードリンクの50代社員が逮捕。  12月10日  邦彦は、転職活動しつつスーパーの惣菜部門でパートとして働いていた。給付金を貰う兼ね合いでパートは4時間しかできず、9時からはじまってお昼には終わってしまう。  邦彦は昔から霊感が鋭かった。  この日、仕事を終えた邦彦が自宅に戻ってくると来客があった。賀来家の隣に住む、盲目の資産家、銀閣郡司(ぎんかくぐんじ)だ。邦彦は銀閣から「死んだはずの母親から毎晩電話がかかってくるので調査して欲しい」という依頼が舞い込む。銀閣は『俺たちの旅』で有名な中年の俳優、中村雅俊(なかむらまさとし)に似ていた。  調査のため、銀閣と再婚した実母の鈴子と共に母親の眠る納骨堂に行くと、棺の蓋は開き、そばにはケータイが置いてあった。その時、恐ろしげな女の幽霊が現れて禍々しい悲鳴を浴びせ、鈴子はショックのあまり気絶してしまう。  そのまま自宅に運ばれ、目覚めた鈴子は、家の壁に教会の油絵が飾られていることに気付く。その教会のある村の名は『黒狼(こくろう)村』といった。かつてその村では、女の幽霊による女教師殺害事件があり、村から依頼を受けて邦彦はその事件の調査をしたことがあった。  邦彦は、体調が回復した鈴子を銀閣家に連れて行き、そこで銀閣と、異様な雰囲気を持つ執事の源田権蔵(げんだごんぞう)に会う。源田は『釣りバカ日誌』でハマちゃんを演じた西田敏行(にしだとしゆき)に似ている。実はこの源田も、黒狼村の出身であった。女教師殺人事件と邦彦による心霊調査を覚えていた源田は、事件を解決できなかった邦彦を非難し、今回の電話事件の解決も無理であると主張する。それに対して邦彦は、あの事件は心霊現象によるものではなかったと反論する。その直後、邦彦と銀閣は超常現象を経験する。自宅に戻った邦彦は、千春と一緒にこれまでの経緯を整理し、女教師殺人事件の資料を最初から読み返し始める。明け方になり、源田が村を離れることにしたので挨拶したいと言って邦彦の家にやって来る。 「近々良くないことが起きるから用心しなさい」と、言って去っていった。  邦彦は身の毛がよだった。  12月15日、夕凪病院に1人の男が錯乱状態で搬送されて来た。その男、園田拓哉は医師に対し、自分が遭遇したという奇妙な出来事を語り始める。  横浜で小児科を営んでいる拓哉は、友人に会う為に夕凪に帰ってきた時、町の様子に違和感を覚える。一見いつもと変わらない町の人々の様子が、まるで人が変わってしまったかのように、どこかおかしいのだ。  調査を進めた拓哉は、やがて戦慄の事実を知る。町は過去から来た未知の生命体によって侵略されており、人々はそれに肉体を乗っ取られてしまっていたのだ。  拓哉はこの戦慄の事実を全世界に知らせるべく、恋人の月子と共に町からの脱出に奔走する。  12月17日、夕凪市では墓荒らしや異常な殺人事件が多発していた。そんな中、賀来邦彦と西原沼男を含む5人の男女は、墓の無事を確かめるために夜の街を車で走らせていた。車を運転してるのは古畑平太だ。車はハイエースで5人乗りだ。助手席には邦彦。真ん中に沼男、後部席には拓哉と月子が乗ってる。 「広美たちたちが成仏できない」と、沼男。  邦彦は10月末にロシアで起きた恐ろしい出来事を思い出していた。  沼男は窓から夜の街を眺めていた。カラスが西の空へと飛んでいく。街灯が一斉に点灯した。冬の夜は寒いから嫌いだ。  ラジオからはLiSAの『紅蓮華』が流れてる。 「拓哉は『鬼滅の刃』見てないの?」と、月子。 「見てない」 「TOKYOMXで4月から9月までやってたんだ」 「アニメはあまり見ないからな」  「『紅蓮華』は鬼滅の主題歌なんだ」  拓哉は沼男が悍ましく思えた。彼は以前、ナイフで自傷行為に及び拓哉に切りかかるなどの異常な行動を起こした。午後5時半、一行はガソリンスタンドに辿り着いたもののガソリンは売っておらず、一行は帰りの燃料に不安を抱えた状態で賀来家の実家跡に辿り着く。つい最近、何者かによって放火されて全焼してしまっていた。母親と邦彦が買い物に行ってる最中に起きたので、彼らは命を永らえた。    コンビニに買い出しに向かった拓哉は月子のカップルは、近くに自家発電装置を使う屋敷を発見。拓哉は屋敷の主にガソリンを分けてもらおうと考えたが、屋敷の奥から黒頭巾を被った男が現れて彼をハンマーで撲殺。拓哉の後を追って屋敷に入った月子は、怪人の手でミートフックへ吊るされて拓哉の死体が切り刻まれるところを見せつけられる。さらには、2人を探しに来た沼男も、冷凍庫へ閉じ込められ瀕死状態の月子を見つけた途端に撲殺される。  日没後、車に残っていた邦彦と平太は仲間たちを探しに向かうが、闇の中からチェーンソーを構えた黒頭巾が現れた。平太はあの凄惨なゲームで手に入れた日本刀で応戦したが、戦い慣れてる黒頭巾に惨殺される。  邦彦は森を潜り抜けながら必死に逃げ惑った末にガソリンスタンドへ駆け込むが、店主の老人は彼を助けるどころか袋詰めにして黒頭巾の屋敷へ連行した。  一連の墓荒らしと殺人事件は黒頭巾、老人たちの仕業だったのだ。  邦彦は異常な食卓に連れていかれ、ミイラのような姿になっていた頭師の手で撲殺されそうになるが、一瞬の隙を突いて脱出する。余談だが賀来家に放火したのは頭師だ。頭師が追撃してきたものの、頭師は邦彦ともみ合っている最中に通りかかったトラックに轢かれて絶命。  さらに邦彦は、その場を通りかかった別の車の荷台へ乗り込むことに成功する。かろうじて生き延びた邦彦は狂ったようにミンチみたくなった頭師を嘲け笑った。  キロスは黒い頭巾を自らの顔から脱いだ。黒頭巾を被っていたのは頭師ではなく、キロスだったのだ。ミッションをクリアしたキロスは解放感から涙を流した。  12月31日  邦彦は紅白歌合戦をコタツで見ていた。 「今年はタピオカが流行ったね?」  千春はコタツに入って蜜柑を食べている。
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