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2020年2月
2月5日
つくば市の事業所で働くセールスマンである邦彦は商談のため車で坂東へ向かう途中、ハイウェイで低速走行する1台の大型トレーラー型タンクローリーを追い越す。しかし追い越した直後より、今度はトレーラーが邦彦の車を追いかけ回してくるようになる。
幾度となく振り切ったように見せかけては突如姿を現し、トレーラーは列車が通過中の踏切に邦彦の車を押し込もうとしたり、警察に通報する邦彦を電話ボックスごと跳ね飛ばそうとするなど、次第に殺意をあらわにしながら執拗に後を追ってくる。
電話ボックスを使ったのはアンドロイドが充電切れを起こしていたからだ。
邦彦は大型車の不利な峠道へと逃げ込むが、出がけに立ち寄ったガソリンスタンドでラジエーターホースの劣化を指摘されており、車は峠道の上り坂でオーバーヒートを起こしスピードダウンしてしまう。なんとか峠の上にたどり着いた邦彦だったが、運転を誤り車を岩場に衝突させてしまう。車がしばらく動かなくなってしまうが、上り坂で再びエンジンを掛けて走る。
逃げ切ることが難しいと悟った邦彦はトレーラーとの決闘を決意し、峠の途中の崖へと続く丘にトレーラーを誘い込む。車をUターンさせてトレーラーに向かって走り、正面衝突する直前に飛び降りるが、衝突の炎と煙で視界を奪われたトレーラーの運転手は邦彦が車ごと突っ込んできたものと思い込み、そのまま崖に向かって走り続ける。崖に気づき、慌てて急ブレーキを掛けるものの、ホーンを鳴らしながら、邦彦の車もろとも崖下へと転落。辺りには2台の車が落下しながら捻じれ軋む音が咆哮のように響く。邦彦は崖から2台の残骸を見つめながら決闘から生還した事を1人喜ぶも、その表情はすぐに晴れやかさを失い呆然と佇む。
「毛塚め、俺を殺そうなんて100年早い」
邦彦は横溝を殺したときのことを思い出した。
ジェンダーハラスメントをしたときに『怪力』を覚えた。男らしさや女らしさを強要するハラスメントを『ジェンダーハラスメント』という。夕凪電工を切られる直前だったので副業で殺し屋をしていたのだが、年下の殺し屋の銭屋は下戸だったので、「男のくせに酒も飲めないのか」と邦彦は鼻で笑った。銭屋は『バナナマン』の日村勇紀に似てる。
また採用の条件が男女で異なる場合や、人員配置に男女いずれかを優先させる扱いもジェンダーハラスメントの一種となる。
2月10日
ダム建設によって湖底に沈むという渓流で、最初で最後の川下りを楽しもうと4人の男がやってきた。その中には邦彦もいた。
彼らは消えゆく自然を憂えたり、ダムの必要性について論議したりしながら、カヌーを積んだ2台の車を上流の村落まで走らせた。しかしもとより過疎地帯で観光地というわけでもなく、現地の人々に歓迎のムードはどこにもなかった。川を下った先にある町まで車を搬送してもらえないかと頼むが話はスムーズに進まず、逆に「ダム建設会社の人間か?」などと尋ねられ、警戒心をむき出しにされてしまう。それでも金を使ってなんとか頼み込んで車を託し、4人は川へと乗り出していった。
今回のリーダー、朝倉一人の号令で4人が乗った2艘のカヌーは川を下り、急な流れを切り抜けたり、美しく手つかずの自然を楽しんだりした。夜になって河原に上がった彼らは、興奮と満足のなかで一夜を明かしたが、翌日の朝に起きた予想外の事件が総てをぶち壊してしまう。岸辺を散策していた別所と銭屋が、2人組の現地人から理屈に合わない因縁を吹っ掛けられた。1人はスキンヘッドで、もう1人はドレッドヘアだ。
スキンヘッドは別所たちに銃を突きつけ、「金をよこせ!」と叫んだ。この危機を救ったのは背後からスキンヘッドを岩で殴った一人だったが、その一撃によってスキンヘッドはまもなく死んでしまう。
「ウワァッ!!」
ドレッドヘアは一目散に逃げた。
4人は思案する。これを警察に届け出て、本当に正当防衛と認められるのか。悪くすれば不当に重い罪を負わされてしまうかもしれない。銭屋はそれでも正直に届け出るべきだと説くが、一人は死体を隠せばまもなくあたりはダムの底に沈み、誰にも知られることなく罪を免れることが出来ると強硬に主張した。逃げた1人にしても、自らの犯行を届け出るとは思えない。
結局一人の意見が通って死体を埋めて隠したのだが、そのあと論戦に敗れた上に意に沿わぬ罪を背負って意気消沈した銭屋が川に落ち、バランスを失ったカヌーも急流にもまれて岩に衝突し砕けてしまう。この事故で銭屋は行方不明となり、一人も足の骨を折る重傷を負うが、一難去った後になって銭屋が川に落ちた理由で再び意見が分かれる。一人は逃げた男が戻ってきて銭屋を銃で撃ったというが、激しく揺れるカヌーの上で他のものは確認できていなかった。負傷で行動できなくなった一人に代わり、邦彦は決着をつけようと崖を登っていく。銃で狙っている男は本当にそこにいるのか?もしいたとして、向けられた銃口に向かって何をすれば事態を切り抜けることが出来るのだろうか?
一人の言っていることは嘘じゃなかった。
スナイパーの正体は源田だった。
あの2人組、源田の手下だったのか……。
「鬼畜!」
邦彦は腹から声を絞り出した。
源田は邦彦に気づき、次々と銃弾を送り込んできた。何発か邦彦に当たったが、前途のとおり邦彦は銃撃を回避する。
一般的に300m以下の距離では戦わない軍の狙撃手の場合、胸を狙って胴体に当てようとすることが多い。 これらは、射弾を頭部や四肢よりも大きく、動きが激しくない胴体へ確実に命中させ、体の組織や臓器に損傷を与えたり、出血させることで相手を殺傷しようとするものである。
源田も邦彦の胴体を狙っていたが、掠り傷さえつかなかった。
「銭屋の命を返せ!」
「そいつぁ無理だな」
シモ・ヘイヘという史上最強のスナイパーがいる。 フィンランド軍のスナイパーであった彼は第二次世界大戦中に505人のソ連兵を射殺しており、これは断トツの世界最高記録になる。
源田の使ってる銃は特殊銃I型だ。豊和M1500を転用した、ボルトアクション方式の警察用ライフルだ。
源田は全弾を撃ち尽くし、ヘリに乗ってどこかに行ってしまった。
とどまるところを知らない人口増加とコロナの影響により、世界は食住を失った人間が路上に溢れ、一部の特権階級と多くの貧民という格差の激しい社会となっていた。肉や魚といった食料品は高価なものとなり、底辺のほとんどの人間は、食品メーカー『シンセス』が製造する合成食品の配給を受けて、細々と生き延びていた。
15日の夜、桜木町にあるマンションの一室で『シンセス』の幹部、坊丸パンサーが後頭部を銃で撃たれて殺される。坊丸は日系二世で、メル・ギブソンに似ていた。
夕凪に住む神奈川県警の豊後は、2月1日に異動になったばかりの瑞巌寺の協力を得て捜査に乗り出すが、様々な妨害を受けた後、新製品『シンセスコーン』の配給中断による暴動のどさくさに紛れて射殺されそうになる。
相手は相当銃の腕前が悪いのか?銃弾は自販機に炸裂した。命からがら、自室に戻った豊後は瑞巌寺が黒い覆面を被った男に射殺される夢を見た。
慌てて夢に出てきた夕凪の西にある赤い外観の廃ホテルに向かった豊後は、浴室で首を真っ二つにされ、血溜まりに沈む瑞巌寺の死体を見つけた。
人の声が聞こえたので、豊後はクローゼットに隠れた。
そして、瑞巌寺をはじめ多数の死体がトラックで『シンセス』の工場に運び込まれ、人間の死体から『シンセスコーン』が生産されている事実を突き止める。その後、背後から暗殺者にスリーパーホールドをかけられ失神する。
相模湾に浮かぶ朝霧島。そこには鉄壁の牢獄があった。管理してるのは『シンセス』だ。
そこに運ばれてきた頭脳優秀な豊後は脱獄の方法を考えていたが、ある日通気口から外へ出られるという話を聞き、独房の小さい通気口への入り口を大きくしてそこから独房の外へ出て、脱出する手段を思いつく。同じ頃、牢獄内で知り合ったピラルクーが、鼻歌を歌っていたのを『シンセス』の代表取締役社長、プローンに禁止されたことに絶望し、舌を噛んで自殺する騒動が起きる。憤慨した豊後は脱獄計画の準備に取り掛かり、囚人仲間たちに協力を依頼し、脱獄用の道具を取り寄せる。
豊後は仲間たちが集めた道具を用いて独房の通気口を取り外すことに成功し、脱獄用のいかだと偽装用の人形を作り上げる。仲間たちもそれぞれ自分の独房の通気口を取り外し、脱獄の準備を着々と進めていく。そんな中、食堂で仲間たちと計画を話し合っていた豊後の元にプローンが現れ、豊後がピラルクーの形見代わりに持っていた、彼のケータイストラップ(ミッキーマウス)を取り上げてしまい、それに抗議した仲間のペ・ポンジュンが腹を殴られて死んでしまった。
ポンジュンは初日に、坊丸はプローンに楯突いた為に教えてくれた。ピラルクーは遅刻が多いことを理由に監禁されていた。
豊後は脱獄を夜に決行すると仲間に伝えるも、入所当初に鼾がうるさくて、起こして恨まれていた赤座(喪黒福造に似てる)に襲われそうになるが、脱獄に協力していた朝倉一人に救われる。一人は浮気相手、和泉を死なせてしまったことに罪悪感を覚えていた。その罪滅ぼしだ。ハセキョーに似てるんだよな〜。
脱獄の決行を控えた当日、豊後に不審な行動が見られることに気付いたプローンは、彼を別の独房に移すように命令する。その夜、豊後、邦彦、小百合らは独房から脱獄して建物の外に出るが、別所は通気口を取り外すことが出来ずに脱獄に失敗してしまう。合流した豊後、邦彦、小百合は監視の目を搔い潜り、用意したいかだで朝霧島から脱出する。
翌日、豊後たちが脱獄したことに気付いたプローンは島の周囲を捜索し、海岸に打ち上げられた邦彦、小百合の所持品を発見する。3人の生存を疑う別所たちに「奴らは死んだ」と言い聞かせるプローンは微笑みを浮かべていた。
大規模な捜索が行われたにも関わらず3人の生死は不明のままだった。
数日後、夕凪駅近くのバーで飲んでいた。パーテーションが邪魔くさい。
「おまえたちは刑事か何かか?」
ジントニックを片手に豊後が邦彦に尋ねた。
「店内で喋るのは御法度だぞ?」
邦彦は苦虫を潰していた。
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