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第五話「僕の音を、聞いて」
僕の頭の後ろで、すさまじい勢いで青空が広がっていくのが分かった。
青空のあいだに、メロディが浮いている。
CコードからF、GからCへ。身体が浮き上がる感覚。
スウィングしている――澄の言葉が。
ああ、この言葉。
猛スピードで逃げていきそうだ。
捕まえなきゃ。今すぐに。
「――あのさ、澄。これからピアノを弾くんだけど」
「ピアノ?」
「そう、今から――ジャズ――スウィング――スタンダード、いろいろ」
「へえ。玻璃くん、ピアノを弾くんだ。知らなかった。聞いてみたいな」
「うん。聞いて。スマホをスピーカーにしておくから――」
爆速でシアタールームに戻る。ピアノの上にスマホを置いて、弾きはじめた。
最初の曲は『茶色の小瓶』。ジャズのスタンダードナンバーだ
つづけて『A列車で行こう』、『ビギン・ザ・ビギン』、『真珠の首飾り』。『この素晴らしき世界』、『オール・オブ・ミー』。
『オール・オブ・ミー』。
布池玻璃のすべて。本当の僕を作っているものは、『ジャズの悪魔』なんだ。
(UnsplashのKelly Sikkemaが撮影した写真)
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