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第六話「自由であれ、自由であれ自由であれ」
僕の指には翼が生えていた。音が止まらない。
シアタールームの天井は青い空になり、メロディが成層圏の彼方まで飛んで行った。
僕は笑う。
スウィングの悪魔と一緒に、笑った。
――なあ、悪魔。メロディには人を幸せにする力があるな。元気づけて、明るくして、どんなことも忘れさせてくれる。
イヤな自分も弱い自分も、言いたいことも口にだせない意地っぱりヤロウも、青い空の果てへ連れて行ってくれる。
この音が途切れた瞬間から、またダメな布池玻璃が戻ってくる。それでいいんだ。
だって、どっちも僕だから。
どっちの僕も受け入れてくれる人がいるから――それで、いいんだ。
澄がいる。僕の初めてのカノジョが。親友でカノジョの女の子が。
自由であれ、自由であれ自由であれ。
ただ、そのままの音であれ、布池玻璃(ぬのいけ はり)。
高らかに鳴り響くジャズピアノは、どんどん空を駆けのぼって、やがてどこかの世界で大きく爆発した。
目の前が白くなる。
気が遠くなるような心地よさの中で『ジャズの悪魔』が笑っていた。
『いいカンジじゃないか、おい。
じゃあ次も、一緒にギグしようぜ――』
(Mariya MuschardによるPixabayからの画像 )
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