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なんでも。
この学校には、七不思議?のような怪談がいくつかあるらしい。疑問符が付くのは、その怪談が本当に七つあるかどうか凛名も知らないからということのようだった。彼女が知っているのは三つくらい。そのうちの一つが、“本物だ”と真しなやかに囁かれているというのだ。
その内容というのが。
「逢魔時に、学校に忘れ物を取りに行ってはいけない……っていうの。特に、教室に取りに行くのが一番駄目なんだって」
「おうまがとき?ってあれだよね、夕方のことだよね?妖怪とかが出やすいっていう」
「まーそう言われてるよね」
ホラー系の話は嫌いではない。逢魔時、という単語は小学生でも知っているくらい有名だ。確か、大体午後五時から七時くらいの時間を指していたはずである。
ちなみに、今日忘れ物を取りに戻った時間は四時前だった。今の時間なら大丈夫だろうけど、とはそういうことである。
「逢魔時に忘れ物を取りに行くと、何が起きるの?」
私が尋ねると、さあ、と凛名は肩を竦めたのだった。
「知らない。神隠しに遭うらしいってのが有力だけど」
「なんじゃそりゃ」
「だって、実際に逢魔時に忘れ物を取りに戻って消えましたーって人いないもん。ていうか、本当に消えた人が“自分はこういう理由で消えました”なんて証言できるわけないしー?ただ、あたしはこの話先生から聴いたからさ。先生がわざわざクラスのみんなに話すくらいだから、やっぱなんかあるのかなって思うじゃん?大人って、こういうオカルトは基本的に信じないぽいし」
「そう言われると、説得力あるかも……」
まあ、先生達の場合は“変な時間に子供が忘れ物を取りに戻ってきて、それで何か事件が起きて責任を追及されても困る”という大人の事情かもしれないが。
本当に信じているっぽい凛名に、そんなことを言うのは野暮というものだろう。
「だから、智夏ちゃんも気を付けてね。忘れ物に気づいても、逢魔時の時間に取りに戻らない方がいいよ。智夏ちゃんがいなくなったらあたし嫌だよ」
「縁起でもないこと言わないでよ。それに、そもそも忘れ物しないように気をつけなきゃいけないし」
「あはは、それは言えてる」
学校の門をもう一度出たところで、四時のチャイムと音楽が流れた。
二人で並んで、最近配信されたアプリゲームの話をする頃には、私はすっかりこの小さな怪談を忘れてしまっていたのである。
九月下旬のことだった。
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