とりにいく。

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とりにいく。

 道園(みちぞの)小学校は、校舎も綺麗で雰囲気の良い学校だった。  親の転勤のせいで転校しなければならず、不安に思っていた私ものことも、五年三組の仲間は暖かく迎え入れてくれたのである。特に、隣の席になった佐渡凛名(さどりんな)は、本当に私に親切にしてくれた。まあ、私がものすごいおっちょこちょいのドジっ子で、見ていてハラハラするというのもあったのだろうが。 「ぎゃ」  赤い煉瓦で作られた正門を出たところで(全体的に、某魔法学校を連想するような西洋風の建物なのだった。数年前に大幅リニューアルしたらしい)、私はポケットを探って小さく悲鳴を上げたのだった。  一応ランドセルを下ろして確認するものの、やっぱりそうだ。絶対に忘れてはいけないもの、がどこにもない。つまり、携帯電話である。 「どうしたの、智夏(ちなつ)ちゃん」  家が近いということもあり、凛名が途中まで一緒に帰ってくれることが少なくなかった。今日も共に学校を出たところで私が慌て始めたので、何事かと手元を覗きこんでくる。 「やらかしたあ!携帯ない!多分、トイレに置いてきちゃったんだと思う!」 「あちゃー」  トイレで用を足す時、立ち上がる際にスマホがするっとポケットから落ちてしまうことが珍しくないのである。だから、私はトイレに入る時は必ずスマホはトイレの中の棚に置くことにしているのだった。携帯が床に落ちて壊れてしまったら大変だし、場合によってはトイレの中に落下して一大事になってしまうからである。いくら大事な携帯電話でも、学校のトイレに落ちたものを拾う勇気は正直ない。  いつもポケットに入れっぱなしにしている携帯を出すのはトイレやお風呂の時くらいなので、きっと今日もトイレの中に置き忘れてしまったものと思われた。私が言うと、凛名は“智夏ちゃんは本当に忘れ物多いよね”とやや呆れてため息をついたのだった。 「ちょっと心配だな。今の時間なら大丈夫だろうけど、念のためってこともあるし……一緒にあたしも行くよ。急いで携帯取って戻って来よう」 「え?うん……」  何をそんなに焦る必要があるのだろうか。今日はお互い塾があるわけでもないし、誰かと約束があるわけでもないのに。私は彼女の言葉に首を傾げたのだった。
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