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「このタイムマシン、実は完成したのは私がいる2147年よりも20年ほど昔、2127年頃には完成していました」
「え? その20年は何があったんですか?」
「世界各国で様々な議論がされていて、本当にタイムマシンで時間旅行を行ってもいいのか、そんな話し合いがずっと続けられたのです。いわゆる、タイムマシン法です」
「……タイムマシン法」
なるほど、と坂元は思った。タイムマシンが本当に開発されたのならば、その使用について世界中で議論されるのは当然の話だ。
「タイムマシン法を許可するか否か。そのことをこの20年ずっと話し合われてきたのですが、ようやくそれが解禁となった。だからこうして私はこの時代にやってきたのです」
「なるほど。そういうことだったんですか。ということは、ウメハラさんの他にも多くのタイムトラベラーがやって来る可能性もある、そういうことですか?」
「ええ。そうなりますね」
坂元は体を反らせて天井を見上げた。
彼が言っていることがまだ全て理解しきれてはいない。多くの事柄が頭の中にあり、それが雑然としている。
「じゃあ、どうしてこの時代にタイムスリップして来たんですか? こんな時代に。2022年という時代は、未曾有の感染症が世界を席巻している時代です。世界中がパニックに陥っているのです。あ! マスク! マスクをしなきゃ」
思い出したかのように坂元は引き出しから不織布のマスクを取り出す。新品のマスクをもう一つ出してウメハラに手渡そうとした。
「ははは、坂元さん。大丈夫ですよ。未来ではもうそんなものは必要ない」
「え? じゃあ」
「そうです。治療法はすでに確立されていますし、そもそもウイルス自体が存在していません。タイムマシン法では、タイムトラベルを終えた人間は必ず精密検査を受けることになっています。そこで仮に何かの感染症や病気を発症したとしても、確実に治療できるというわけです」
2022年にはなかった治療法が2147年には確立されている。それを聞いた坂元は安堵するような表情を浮かべた。
「未来ではね、どんな病気も治療法が確立されているんです。まあ唯一、脳科学に関しては未だに研究が進められていて、謎も多いのですが。なので、マスクは必要ありませんよ」
彼は微笑みながらコーヒーを飲み干した。ソーサーに陶器の音が響く。
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