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ウメハラと名乗ったその男性は、落ち着いた様子で語る。
「信じてはもらえないのかもしれませんが、これは本当のことなんです。私は、未来から来ました」
四十代前半、服装は未来的だとは思えないほど普通だった。Tシャツにジーンズという出立ち。髪の毛は伸ばしっぱなしで、女性の髪型のように肩にかかるほどだった。
坂元は訝しげに彼の話を聞いている。
ここは応接間。革のソファが二つ置かれたそれほど広くはない部屋。
壁には本棚と収納棚があり、カーテンが閉められてはいるが窓は一つだけ。白い壁にはポスターなどは貼られておらず、簡素な雰囲気が漂っている。
円盤型の自動清掃ロボットが床を掃除するために巡回していた。
「ウメハラさん、ここはタイムトラベル事象を研究している施設なんです。相対性理論の応用によってタイムトラベルは可能だと私は思っております。ただ、やはりまだ疑いの目を禁じ得ない」
「わかります。すぐには信じてはもらえないと思っています。だから、ひとつずつ説明させて頂きますよ。聞きたいことがあればどうぞ」
ウメハラは自信満々でそう答えた。
坂元は判然としない様子で彼に尋ねる。
「では、お聞きます。あなたは、タイムマシンに乗ってこの時代へやって来た、そういうことですよね?」
「そうです」
「でも、あなたはこの施設の近くにいましたが、手ぶらでした。タイムマシンは別の場所に置いてきたということですか?」
坂元が彼を発見したのは、この研究所の周りにある森の中だった。
突然声をかけられ、「私は2147年の未来から来たのです」と声高に話す彼に興味を示したのが始まりだった。
「タイムマシン、というもののイメージはどんなものを想像していますか? 大きな機械? 乗り物? もしくは建物のような巨大な物体?」
「まあ、そんな感じでしょうか。やはり、大きなものを想像してしまいます」
「坂元さん。未来は全てが小型化、軽量化されています。この時代には考えられないのかもしれないが、ほとんどのものが手のひらに収まるものばかりだ。携帯電話はもちろん、自動車やバイク、住宅さえもコンパクトになっています」
「え、え? ど、どういうことですか? 自動車が? 家が?」
「家の鍵や車の鍵、それだけなんですよ。そこに全てが収まってしまうんです。使用する際に元に戻すという感じで。信じられませんか?」
「え、だって、それなら質量保存の法則が成り立たない」
「ははは。パニックになるのもわかります。今は確か、2022年でしたよね。ここから80年も経過すると世界は今までとは一変する形になります。それを説明していると時間がいくらあっても足りないので割愛しますが」
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