泣いて泣いて狂う

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泣いて泣いて狂う

寒い冬の朝。寒い冬の朝。コンコースにはクリスマスの装飾がしつこい位に施されていて、誰もそれが見えていないかのように、それぞれの会社へ早足で向かう。智佳は駅ビルのショーウィンドウに飾られたコートを見た。 ——かわいい。こういうの、浅田さん好きかな? 別れてからひと月が経っても、智佳の思考はなにも変わっていない。頭の中には常に浅田の姿しかなかった。 美味しい物を食べたら彼にも食べて欲しいと思う。行きたい場所を見つけたら、彼と行く事を想像してしまう。いいアーティストを見つけたら、どの曲から聴いてもらおうかと考える。考えてまた、意味がない事を思い出す。けれど他に何を考えるべきなのか、自分がこれから何処に向かうべきなのか、何もわからない。何も見えてこない。 智佳は途方に暮れていた。 痩せたその首には、浅田からプレゼントされたネックレスが下がったままだ。それを付けていると、わずかでも彼の存在を感じることができる。そばにいる気がする。 自ら別れを選んだにも関わらず、嫌気がさすほど全く彼を諦められていない。どうしたって、この先の日常は彼ありきで考えてしまうのだ。叶わない未来だとはわかっている。けれど、この会いたいくてどうしようもない感情の誤魔化し方もわからない。 彼のいない未来へ一歩も踏み出せないまま、今年が終わろうとしている。 空っぽの気持ちで仕事へ向かい、家に帰ればあの日々を思って涙を流す毎日。人は何故泣くのか。泣きながらそんな事を考えたりもする。けれど泣いても泣いても、智佳の涙は枯れることはない。 不思議なもので、泣く事も毎日のことになると、いちいち大袈裟に目が腫れたりもしなくなる。泣き方が上手くなっているのかもしれない。 なのに心はずっと、ジンジンと腫れ上がった感触が消えないままだ。 ————私はいつもトロいんだ……
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