裁 く

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しばらくぼんやりと歩きながら風景を眺めていると、佐藤もぼんやりと切り出した。 「前にさ、あいつらに怒られてたでしょ」 「え?」 何のことかと智佳は隣を見上げた。彼は前を向いたままで話し続ける。 「チラシの仕事俺に押し付けられて、ちゃんと文句言えって、怒られて泣いてたでしょ」 「えぇ!? え、何で知ってんの?」 智佳がその黒歴史に慌てるも、佐藤は表情を変えずに遠くを見ている。 「いや、普通に部屋の外まで聞こえてたから」 「あぁ……それは…………」 智佳は恥ずかしさで両手で顔を覆った。 「俺その前にあいつらとちょっと揉めてたんだ。だからトモカさん俺と仲良くしてたせいで巻き込まれて、それで泣かすような事になってごめんね。ってずっと言おうとしてたけど、もしかして、俺のせいじゃなかった?」 やっと佐藤が振り向いた気配はあるが、逆に智佳が目を合わせられない。 「あぁ…………あれはホントに、情けない。申し訳なかった……」 楽しそうに歩く会社員たちは、皆どこか狂っているようにはしゃいでいる。二人はその群れの中をゆっくりと歩いた。 「あのヤンキー女、不倫撲滅派だから、トモカさんのそれ、口が裂けても言わない方がいいよ」 「そうなんだ」 元々、職場の人間なんかに言う気はなかった。 「前にたまたまね、あいつの後ろ歩いたらツイッター開いてて、ちょうどアカウント見えたんだよ。随分楽しそうにしてたから、興味本位でそのアカウント見てみたんだけど……」 「えっ? なに? 何故? 目良すぎない?」 突然始めた佐藤の話に、智佳は戸惑う。 「ほんと偶然。それで出来心で見てみたら、自分の素性隠して人を叩きまくるだけのアカで。もう消されてるけど、うわ気持ちワルって思った」 意外だった。いつも堂々として自信に満ちているように見える彼女には、そんな陰湿な事をするイメージが無かった。しかしよく考えてみると、確かに言いたい事をはっきりと言える相手は同僚や後輩だけかもしれない。時々仕事で上司に注意を受けても、その場では何も言わない。不満そうに「すいません」と言うだけだ。そして上司がいなくなった途端に大きな声で文句を言い出すのだ。 彼女の本性は、気の小さいずるい人なのか。心当たりはあるものの、イマイチしっくりこない部分もある。
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