裁 く

3/3
前へ
/121ページ
次へ
智佳は入社当時の記憶を辿った。そもそも彼らは仲が良かったはずだ。 「なんで揉めたの? いつ仲悪くなったの?」 佐藤は無表情のまま鼻で笑った。 「仲良くないよ。俺は最初からあんまり好きじゃなかったもん」 「へぇ」 それも意外だった。浅田との関係が始まるのと同時に勤め出したので、智佳は会社の人間関係を全く知らずここまで働いていた。 「それでね、その後の昼休憩であいつらキャアキャア騒いでて、話聞いてたら多分そのツイッターで盛り上がってたんだよ。俺は昼寝したかったのに、あまりにうるさいからちょっとイラッとしちゃって、『うるせえゴミクズ』って言っちゃったんだよね」 「まぁ……!」 驚いて再び顔を上げると。佐藤はへらっと笑って舌を出した。 「そしたらあいつブチギレて、『クソガキ』だの『童貞野郎』だの知能低い事言ってくるからこっちも腹たって、アカウント見たって言っちゃった。『不倫芸能人叩く事でしか自分の正義を主張できないようなクズ』とか『お前の顔晒してやろうか』とか色々言っちゃってね……へへっ、ひと揉めした後ちょうど皆んな帰ってきたから、そこで終わった」 「…………なんとっ!」 自分の知らないところでとんでもない戦争が起きていた。智佳はそんな現実を想像もしていなかった。 「こないだタバコの話、トモカさんにしたじゃん。前にアイツにも同じ事言われてて、気持ちがおさまらなくてあんな事言ったんだと思う。ごめんねっ、やっとあいつらの顔見なくて済むからせいせいするよ」 佐藤は長い両腕を上に伸ばし、気持ちよさそうな声を出した。話している間に二人は明るい駅の中に入っていた。 「俺こっちだから」 そう言って佐藤は地下鉄の改札方面を指さした。 「うん、あの……私も最低なのに、あんまり責めないでくれてありがとう」 智佳はこの言葉で合っているのか疑問に感じながら、佐藤をまっすぐに見上げた。 「トモカさぁん、僕はね、ひとのプライベートいちいち裁くほど暇じゃないのよ。じゃね〜」 だるそうに手を振り、彼は人混みの中に消えていった。 next 【 前を向く、そこが始まり 】
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加