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智佳は入社当時の記憶を辿った。そもそも彼らは仲が良かったはずだ。
「なんで揉めたの? いつ仲悪くなったの?」
佐藤は無表情のまま鼻で笑った。
「仲良くないよ。俺は最初からあんまり好きじゃなかったもん」
「へぇ」
それも意外だった。浅田との関係が始まるのと同時に勤め出したので、智佳は会社の人間関係を全く知らずここまで働いていた。
「それでね、その後の昼休憩であいつらキャアキャア騒いでて、話聞いてたら多分そのツイッターで盛り上がってたんだよ。俺は昼寝したかったのに、あまりにうるさいからちょっとイラッとしちゃって、『うるせえゴミクズ』って言っちゃったんだよね」
「まぁ……!」
驚いて再び顔を上げると。佐藤はへらっと笑って舌を出した。
「そしたらあいつブチギレて、『クソガキ』だの『童貞野郎』だの知能低い事言ってくるからこっちも腹たって、アカウント見たって言っちゃった。『不倫芸能人叩く事でしか自分の正義を主張できないようなクズ』とか『お前の顔晒してやろうか』とか色々言っちゃってね……へへっ、ひと揉めした後ちょうど皆んな帰ってきたから、そこで終わった」
「…………なんとっ!」
自分の知らないところでとんでもない戦争が起きていた。智佳はそんな現実を想像もしていなかった。
「こないだタバコの話、トモカさんにしたじゃん。前にアイツにも同じ事言われてて、気持ちがおさまらなくてあんな事言ったんだと思う。ごめんねっ、やっとあいつらの顔見なくて済むからせいせいするよ」
佐藤は長い両腕を上に伸ばし、気持ちよさそうな声を出した。話している間に二人は明るい駅の中に入っていた。
「俺こっちだから」
そう言って佐藤は地下鉄の改札方面を指さした。
「うん、あの……私も最低なのに、あんまり責めないでくれてありがとう」
智佳はこの言葉で合っているのか疑問に感じながら、佐藤をまっすぐに見上げた。
「トモカさぁん、僕はね、ひとのプライベートいちいち裁くほど暇じゃないのよ。じゃね〜」
だるそうに手を振り、彼は人混みの中に消えていった。
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