何から伝えれば

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何から伝えれば

ずっと行ってみたいと思っていた店だったのに、会話は弾まず、料理の味もわからない。美柑の心のなかに、常に渦を巻いている感情がある。今までと打って変わって口数の少ない美柑に、上野は終始気まずそうにしている。 「——そろそろ、帰ろうか?」 様子を伺うように彼が口を開いた。美柑はいつも一生懸命、上野と会話をしていた。何とか興味を持ってもらおうと、少しでも楽しく感じてもらおうと、いつも必死だった。けれど今日は、不安と迷いでなかなか言葉が出てこない。彼の顔を見ると、とてつもなく切ない気持ちになってしまう。 俯いたままゆっくりと頷く姿を見て、上野は店員に会計を頼んだ。 店を後にした二人は、どちらからともなく駅に向かう道をゆっくりと進んだ。そしてその先の、国道に面した歩道橋の階段を登る。美柑は気持ちの整理がつかないまま、上野の背中を見つめた。 外の空気は今日も冷たい。ついこの間秋になったばかりなのに、あっという間に冬になったようだ。会話のない二人の口からは、白い息だけが一定のリズムで吐き出される。 歩道橋の上まで登ると、広い道路沿いのイルミネーションが視界に広がった。キラキラと輝いて美しい。美柑は立ち止まって、それに見惚れた。 「きれいだね」 上野も立ち止まり、隣でそれを眺めた。青白い光はどこまでも続く。 「上野さんは、ほんとに優しいですね」 黙ってばかりいた美柑が呟いた。 「んん?」 上野は美柑を見下ろした。美柑は何か言おうと口を開いたけれど、すぐにそれを飲み込んだ。その冴えない表情を心配に思ったのか、彼は美柑の顔を覗き込み少し笑った。 「時間大丈夫なら、ひと駅、散歩しませんか?」 美柑は上野を見上げたが、目が合うとすぐに逸らしてしまった。少し悩んだ後、「はい」と掠れた声で返事をした。それを聞いた上野は黙って頷き歩き出す。 登ってきた逆側から階段を降り、広い歩道に出て再び並んで歩いた。時々、大人のカップルや酔っ払った会社員たちとすれ違う。 散歩をすると言っても、話したい事はもう無かった。美柑はもう、彼を諦めなければならないと思っていた。なぜなら、上野はきっとユウの事が好きだから。この数日間、様々な考えを巡らせたが、結局はその結論に行き着いてしまう。奥手な彼が泊まりで誘ったとユウが言った時、美柑は全てを理解したのだ。 ——いや、本当はずっとそんな気がしていた……。
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