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何かずっとつかえていた物が、ゆっくり溶け出しているような気がする。うっすらと視界が明るくなって、天井を見上げてひと呼吸ついた。
「ありがとう上野。
………………で?」
「え?」
「ちゃんと、服かわいーねって言ってあげた?」
話が変わった瞬間、上野は顔を赤らめ、あからさまに慌てた。
「うん、いや、まぁ……言った、けど……」
「キモいから照れんなって」
思わず二人で吹き出してしまった。少し黙った後、上野はためらいながら話し出す。
「あぁ……うん。でもあれだな、勢いっていうか、展開が早いっていうかぁ……」
「おん?」
ユウは何となく察した。にやけてしまいそうな顔に力を入れて、上野の話を真面目に聞く態度を見せる。
「ぃやぁ、うん、なんか、好きだとか……言われて、しまって……」
「おぉーーーーい! フゥーーーー! やったじゃぁ〜〜〜ん! コングラジュレイショーーーーーーン!」
我慢できずにユウは叫び出した。ガラスの向こうを歩く社員が全員、喫煙所の中を振り向く。
「ちょ、うるせぇ! 俺そんな事言われても、そんな若い子とホイホイ付き合えないよ」
上野は照れながら困った顔で下を向いた。
「えぇ〜? いーじゃん別に、ホイホイ。『まずはお友達からぁ』とか言っちゃうの? だっせぇ〜」
「いや、そうじゃないけど、でも……待ってるって、言われた。向き合ってくれるまで待ってるって。それから返事しろって」
「おぉ、みかん、頼もしい」
一体それの何が困るのか、ユウには理解できない。上野は引き攣った笑顔で頭を掻いた。
「うん、圧倒されちゃったよ。ものすごいストレートに、理論立てて、もうそれはプレゼンで……」
「あぁ……はっはっはっ!」
ユウは腹を抱えた。その二人の光景がすぐに想像できたからだ。
「笑いすぎ。でもすごい、一生懸命伝えてくれたのはわかった。正直、ちょっとかっこいいと思ったよ」
「いーじゃん」
ユウが覗き込んだその瞳は、数日前の美柑を見つめていた。
「……女の人って強いな。ユウさんもかっこいいし。なのに、俺はどうだ?」
下を向いたまま弱いため息を吐き出した。ユウは笑顔のままその頭をわしゃわしゃと撫でる。
「あんたもかっこいいよ?恋愛は知らないけど、他の面はぜんっぶ尊敬してるよ。もうどれだけ助けられたか。だから大丈夫、上野はちゃんっとかっこいい。10年見てた私が言うんだから。もっと自信持ってくれよぉ!」
「…………ゆ……ユウさぁん……」
上野の涙声を聞いて、ユウは「ぷっ」と吹き出した。
「なんつってーー! うっそーーーん! ばーかばーか!」
「おいっ!」
二人の笑い声で、再びガラス越しの社員が振り向き怪訝な顔をした。
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