泣いて泣いて狂う

2/2
前へ
/121ページ
次へ
智佳は、感情に整理をつけるのが遅い自分を恨んだ。話を飲み込むのも、その答えを見つけるのも、人より少し遅い気がしている。いつも言いたい事が見つかった頃には、事態はもう別の展開になっている。 周りのテンポについていけずに、いつも一歩出遅れる。子供の頃からそうだった。けれど周りの人間のお陰で、それを不自由を感じた事はなかった。親も友達も、待ってくれるのが当たり前だった。 しかし、今この状況で待ってくれている人は誰もいない。誰にもこの声は届かず、気持ちのやり場がない。 早く元の生活に戻りたい。いつになったら、去年までのような日常が戻ってくるのか、考えても考えても、見当はつかない。 「——岡島さんって彼氏いるの?」 ランチに出ようとしたところに、同僚のギャルが唐突に尋ねた。 「え、いないですけど……?」 智佳は少し身構えた。 「良かった。あのう、今日、合コンなんだけど、数足りなくて……お願い! 来て! 頼む!」 そう言うと、彼女は智佳に向かって90度に頭を下げた。貧血気味の智佳は、あまりに突然のその状況を、ひとごとのように見ていた。周りの同僚たちは休憩の準備をしながら、さりげなく二人の会話に聞き耳を立てている感じがした。ぼんやりと考えてみるも、彼女の無茶な頼みを親切に引き受ける義理もない。智佳は苦笑いでゆっくりと首を振った。 「私じゃちょっと、ね。年もアレだし……」 向かいの佐藤がスマホを見ながら一人頷いている。まるで「まぁそうだよな」とでも言っているようだ。しかし彼女は引き下がらない。一度断られることくらいは想定済みのようだ。 「大丈夫! 男子みんな30代だからっ! しかも全員いい企業! 頼む! お願い! 迷惑かけないから! 一生のお願いぃ!」 普段の智佳なら絶対にノーと言う。そもそも、自分より若くて可愛いギャルの合コンなど、一体誰がイエスと返事をするだろうか。これはもう誘う方が狂っているとしか言いようがない。 しかし、今の智佳はそれ以上に狂っている。最初はあり得ないと思ったが、それも何か決めつけのような気がした。どうせ真っ直ぐ家に帰ったところでメソメソ泣くだけだ。無理矢理にでも、何か新しい流れが必要なのかもしれない——。 「わかりました。行かせていただきます」 言った瞬間、周りにいた全員が驚いて顔を上げた。 next 【 第6回 選ばれなかった悲しみ 】
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加