第6回 選ばれなかった悲しみ

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ユウは優しくさする手を止めない。 「友達の親戚にね、もう、そうやって生きて行くって決めた人がいたんだって。私の親と同じ位の年齢なんだけど、独身のまま愛人で居続けたんだって。でも、どんなに愛しても相手は離婚しなかったし、病気になっても看病にも行けなくて、亡くなった時も遠くから葬儀を見るだけだったんだって。二番目って、そういう事なんだよ」 智佳は黙ったまま、はらはらと涙をこぼし続ける。慣れたようにボックステッシュを持ってきた美柑が、その頬をそっと押さえる。 「智佳さん、私は好きな人を誰かと共有したくありません」 「そうだ。脇役はダメだ。自分の人生を生きるんだぞっ」 ユウはさすっていた手で、ぽんっと智佳の背中を叩いた。 「…………うん、ありがとう、でも……でもあの人はずっとそんな事をするような、そんな悪い人じゃない……と思う。すごく大切にしてくれたから……」 「はい。」 美柑は少し呆れた顔をした。ユウは下唇を突き出して、おどけた表情を作る。 「まぁ、好きだとそうなっちゃうよね〜。今も会いたくてしょーがないんだもんねぇ」 「うん、会いたい。一緒にいた時間はいい思い出しかないから、いっぱい思い出しちゃう……いつも、私を大事そうな目で見てくれた。あの顔が忘れられない……。あ、そっかぁ、大事にしたいもの全部大事にしたから、ああなっちゃったのかなぁ……」 ぐちゃぐちゃの顔をティッシュから出して、智佳は遠くを見た。それを見た美柑は大きなため息をつく。 「智佳さんも大事で奥さんも大事って、それって二人に大事にされたいって事ですよね。欲張りな人ですね」 背筋を伸ばした様子見て、ユウは彼女の中で何かスイッチが入った気がした。案の定、美柑は言葉を続ける。 「智佳さんの好きな人だから今まで言わないできましたけど、その男、ただのクズですよ。そんな奴をずっと好きなんてどうかしてます」 「あ、美柑ちゃん、ちょっと……」 ユウが制しようと手を伸ばすも、もう遅い。 「智佳さんはちゃんと、その人に傷付けられたんです。それをもっと理解して下さい。あなたは、あなたの愛する人に、何度も何度も傷付けられてたんです。会う度にです。会えない時にもです。そんなにボロボロになって、全部奪われて、なんでまだその男を庇えるんですか?」 智佳は「うーんでも…」とまた小さくなる。 「そもそもですね、そうやって傷付けられて庇ったりしてますけど、智佳さんも加害者なんですよ? 彼の奥さんの気持ち、多分考えた事ありますよね? お付き合いは短かったようなので恐らくバレていないと思うんですけど、でもバレるバレない関係無くて、現実に他人を傷つける事をしてしまっているんですよ。 もっとちゃんと考えて下さい! あなたがめちゃくちゃに傷付いてるのと同じくらい、いやそれ以上に、彼の奥さんも死ぬ程傷付くことになるんですよ? そして何より腹立つのは、唯一、あなたがそこまで愛しているその男だけは少しも傷付かないってことです! どうせ味しめてまた浮気しますよ。要領は十分わかってますからね、二回目はきっと簡単ですよ。だから智佳さんは、せっかくバレずに終われたなら、もう忘れましょう! せめて忘れる努力をしましょう!」
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