第6回 選ばれなかった悲しみ

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一気に喋った美柑は、微かに息を切らしていた。軽く咳払いをして、氷の溶けたカクテルを流し込む。 「……美柑ちゃん、ぜーんぶ言っちゃったじゃん。ボッコボコだよぉ」 ユウが智佳の両肩を支えながら唖然と言った。美柑がグラスをテーブルに下ろすと、細かい氷がカシャリと鳴る。ふと顔を上げると、悲しそうな顔をした智佳がただ座っていた。 「あっ、すいません。見てられなくなっちゃって……」 またやってしまった。と思った。言わなくても良いことまで全て言ってしまうのが美柑の悪い癖だ。気まずい顔をする美柑に、智佳は消えそうな程小さな声で答えた。 「ううん、美柑ちゃんの言う通り。はっきり言ってくれてありがとう、反省します」 そう言って小さく頭を下げる。見かねたユウはわざと明るい声を出した。 「まぁ、ね、美柑ちゃんも、あれでしょ? 相手の事ばっかりじゃなくて、自分が傷ついてる事に無関心になるなぁ〜って言いたかったんだよね? ははっ」 適当に笑いながら、冷たくなったカレーを口に入れる。美柑は申し訳なさそうに下を向いた。 「そう、そうです。そう言いたかったんですけど……ごめんなさい」 ユウはそれが少し可愛らしく見えて微笑んだ。そして思いつくまま喋る。 「こないださ、歩いてて思ったんだけど、車ってさ、ちょっと傷付いただけで、高い金払って修理するよね」 智佳と美柑は小首を傾げた。 「でもさ、自転車って傷付いたり凹んだりしても大抵そのまま乗るよね。カゴとかベッコベコでも。そんでいらなくなったらポイと捨てられる。下取りもしてくれない。だから、なんて言うか……」 「智佳さんは、自転車じゃなくて高級車になれ。と?」 美柑が察した。 「そう! それ」 「うーん……」 美柑はどこか納得していない様子で、腕を組んで斜め上を見た。 「え、だめ?」 「ダメじゃないですけど、なんっか、うーん」 二人の様子を見ていた智佳が弱々しい笑い声を上げた。安心したユウはさっぱりと話を切り替える。 「てか美柑ちゃん、上野はどーした?」 「あ、それ聞きたい」
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