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智佳の声が微かに元気を取り戻した。智佳は少し前のグループラインで、初めて美柑と上野の状況を聞いていた。美柑は冷静に答える。
「うぅん、まぁ、変わらずですけど、でも少しずつ上野さんも私に慣れてきてる感じはあります。この間の週末、ランチもしましたし」
「ぅえーい。いい感じじゃないのお」
ユウの声は一気にトーンが上がった。けれど美柑の表情は冴えない。
「うーん、どうでしょうねぇ、離婚した人を相手にするには、やっぱり私じゃ役不足かもしれないと思ったりして」
「大丈夫だよ、バツイチウェルカム言ってたじゃん」
わっはっはっと笑いながら、ユウは空のグラスをカウンターの方に掲げた。美柑はうかないため息をつく。
「はぁ、あの発言は浅はかでしたね。バツイチ男の闇は深いっす」
ユウがニヤリと笑う。
「美柑ちゃんって、こじらせた男好きだよね」
「そんなつもりは無いんですけど」
智佳は二人の会話を聞きながら、もし浅田がバツイチになったら——。と密かにまたそんな想像をしていた。それを見透かすように、ユウがからりと言い放つ。
「あれだね、美柑ちゃんはアイウォンチューで、智佳ちゃんはアイニージューだね」
そう言いながら、マスターからワインを受け取った。「はい下げますよー」と言いながら彼はせっせとテーブルの皿を片付ける。
「ありがとつるさん。あっ! そういえば」
ユウは大きな声で何かを思いついた。マスターの肩がビクッと動く。
「上野と果物狩り行く話してたんだ! もう冬じゃん!」
口を開けているユウを、美柑は羨ましそうに見た。
「いいなぁ。でも、冬もいちごとか色々あるんじゃないですか?」
「いや、私はもういいよ。美柑ちゃん行きなよ」
興味なさそうにユウは新しいワインに口をつけた。
「えっ、それはちょっと…変な話になりませんか?」
美柑が苦笑いをする。
「そっかぁ。じゃあ、皆んなで行く? 智佳ちゃんも行く? もうそうなったら上野はただの運転手だけど」
「えっいいの?」
智佳は目を輝かせた。
「それは楽しそうですけど、申し訳ないですね」
美柑の言葉に智佳はまた肩を落とす。
「あぁでもアイツ一泊したいって言ってたから、運転長くても大丈夫でしょ。え、温泉とか行っちゃう?」
さも良い事を思いついたように、ユウは自分の口に手を当てた。智佳は「えっ」と嬉しそうにキョロキョロする。肩を寄せ合い笑う二人の正面で、美柑はひっそりと、氷が溶けたグラスを両手で握った。
「…………もともと、上野さんとユウさんの二人で行く予定だったんですよね?」
テンションの上がらない美柑を見て、ユウは大らかに笑って見せる。
「うん、でも全然、人数増えてもいいでしょ」
それでも美柑は不安げだ。
「……でも、上野さんが一泊しようって、ユウさんを誘ったんですよね?」
暗くなる美柑の顔を見て、ユウはまた大きく笑う。
「なーにぃ? 心配してんのぉ? 違う違うっ! ただの話の流れだからぁ。全然そーゆうのじゃないってばぁ!」
思い切り首を横に振るユウに美柑は笑顔を向けた。けれどそれは、わずかに引きつったものだった。
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