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思わず見とれるほど繊細な光だ。
胸が温かくなる。じっと見つめると、光は一斉の周囲をクルリと一回転した。
『これは立仲 昭三の記憶だ。これを、オマエにやろう』
「記憶? なんで」
『その知識があればオマエでも喫茶店を切り盛りできるだろうと、コピーを渡すよう立仲 昭三に頼まれた。立仲 昭三はバリスタ……コーヒーを淹れる専門家として、喫茶店を経営していたからな』
バリスタ。初めて聞いた。
コーヒーなんてほとんど飲まない一斉には、喫茶店もバリスタも馴染みがない。
立仲はコーヒーだけでなくたくさんの飲み物について勉強していて、自分の愛する喫茶店文化の魅力を多くの人に広め、喫茶店を愛する人を増やすことが夢だったらしい。
つまり一斉のような人にも喫茶店でコーヒーを楽しんで欲しかったわけだ。
一斉はこの夢を別世界で引き継ぐ。
声が『あちらに飛ぶ際、オマエの脳内にインストールしておこう』と言うと、光は一斉に触れ、染み入るように消えた。
なんとなく内側が熱を持った気がして、体の力がすぅ、と抜ける。
温かいものが好きだった。
温かくて優しい。そういうものが好きだ。大きくて柔らかだともっといい。理想はそういうものを抱くこと。
──タナカの夢が喫茶店なら……俺の夢は、そういうもの……かもな。
我ながら拙い夢である。
幼稚園児のラクガキのようなクレヨンのイラストでモフモフの塊を脳に描き、一斉は夢モドキを奥へ封じた。
『さて、そろそろ行こう。試練のこと、ゆめゆめ忘れるな。コツコツでよい。オマエなりに熟す姿勢が大切だぞ』
「ちゃんと、やるさ。喫茶店のマスター……タナカの夢、叶えるぜ」
『うむ。それでは少し肉体を預かろう』
「あぁ……いろいろ、ありがとな」
『なに。仕事だからな』
「けど、こんなに誰かと話をしたのは……久しぶりでよ。……すげぇ、嬉しい」
『…………』
だから少し、この口が名残惜しむ。
もう行かなければならないとわかっていても言葉を吐いて、あと少し、あぁもっと、と、惜しむ一斉は純粋な嬉しいという感情のみを混ぜて語る。
「話をするのは、本当は、嫌いじゃねんだ。俺は、たぶん、好きだった」
『…………』
「好きなことできて、させてくれて……ありがと、な」
もう自分でも定かでない自分。
声の優しさという温かいものに触れて、思い出した感情だ。
声は黙って聞く気か、なにも言わずに一斉を別の世界へ飛ばす準備を進める。
おそらく、もう声とこうして話をすることはないのだろう。
そう思うとやはり名残惜しく、口下手な一斉は思いつく言葉をコトコトと並べて語りかけ続ける。
もう少し話を。もう少しだけ。
本当に久しぶりだったのだ。
あんなに何度も名前を呼ばれて、ただ言葉を交わしたことが。
「な。アンタの名前……教えてくれよ」
『ん……?』
「俺、毎日祈るぜ。タナカ ショウゾウと、アンタに。ちゃんと生きてるって……──」
──だから毎日、感謝したい。
最後の言葉と共に、一斉の体は少しずつ透け、白に解けていった。
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