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その事実に気づいた瞬間、彼の優れた頭脳はすぐに回転しはじめた。
彼女の自宅最寄り駅までの所要時間は、電車で約20分。
ぐるっと楕円を描くような路線だから、直線で移動すれば追いつける。
……よし、行くか。
意を決したエリックは走り出す。
勢いをつけ革靴で路面を蹴り、路地裏の大きなゴミ箱、建物の壁と窓のひさしを踏みながら屋根の上まで登る。
やってて良かったパルクール。
体型維持のためにと始めた趣味が、こんな形で活きるとは。
おまけにこのスーツ。身体の動きを一切阻害しないフィット感だ。
おかげでスピードを落とさずに次から次へと飛び移れる。
さすがはオーダーメイド。
屋根、また屋根、次は工事現場の重機。
正確に足場を選びながら、風とひとつになったエリックは全速力で夜の街を駆ける。
愛するスーザンの許へと。
スーザンと初めて出会ったのは、クライアント主催のパーティーだった。
「エリックさんとお話できて楽しかったです。……ありがとうございました」
“なに考えてるかわからないロボット眼鏡”
“あたしのことホントに好きなの?”
“一緒にいてもつまらない。サヨナラ”
一方的に惚れられて、一方的に捨てられる。
女性とはそんなつきあいしかしてこなかったから、花のような笑顔でそう言ってくれた彼女は、まるで天使のように見えた。
「あの……もしよろしければ、連絡先、交換しませんか?」
生まれて初めて自分からアプローチして、交際までこぎつけた。
彼女と過ごす時間は、いつだって夢のように楽しくて、いつしか自然に笑えるようになっていた。
結婚なんてリスクのかたまり。
時間もお金も自分自身のためだけに使いたい。
ずっとそう考えていた自分が、彼女となら一生を共にしたいと心の底から思うようになっていた。
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