風花雪月

2/21
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 目覚まし時計のアラーム音が響く。  嫌らしい程に眩しい太陽の光が目の中に突き刺さってくる。  逃げるのだ。  逃げ続けるしかないのだ。  ひたすら自転車のペダルを力の限り踏み続けるのだ。  自分に言い聞かせる。  ここは己を焼き尽くすための地獄でしかない。  存在そのものが消滅してしまえば、何もなかったことになると思うしかない現状に飛び込んでいく消耗戦ですら、思考能力を破壊していく旋律と衝動の激務による賜物となりえる崩壊の序曲に身を寄せる……。  ピピッ、ピピッ、ピピッ……。  同じ音を繰り返すしか能のない単純明快な糞のような響きも、ここでは貴重な存在感を保ち続ける、果てる事のない自慰行為。  あっ……。  天気雨が激しいな……。雹が降ってきたよ……。  白い壁に囲まれた空間が虚無を語りかけてくるような部屋の中で、白いシーツで無駄に身体を被い、何かを考えている状態ではないのに、一点だけを異常な程の集中力で見つめ続けるのだ。  全ては分かり切っていることだ。  嘘に塗れた絵空事の羅列を読み込み続ける、思考停止状態に放置された認知機能のフル回転が悲鳴を上げながらも、傲慢な圧力に抑え込まれているにも関わらず存在の意味を確認し続けている。  全ては見え透いた英知の搾取がなしえる素晴らしい世界が語る永遠の物語なのだろう。  目の前の赤い自動車に乗る。  燃料が尽きるまで走るのだ。  全ては激しい衝撃が何もかも吹き飛ばしてくれるだろう。  そこに圧倒的な快感による解脱を得られることがあるなら……。  快楽、悦楽、陥落……。  何かが見えたようで見えていないかも……。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!