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幼いレイモンドが、茂った葉のあいだに身を潜めている姿は、なぜだかモリスにはすぐに想像できた。
「だって、あれは……」
子供時代に戻ったように、口を尖らせながら答えるのがなんだか微笑ましい。
というか、十八歳のレイモンドは、二十四歳で勤め人のモリスから見れば、まだまだ子供っぽい存在だったが。
「あれは?」
「興味ないんだ。綺麗な花とか、花言葉とか」
「そうでしょうとも」
あなたはそういう人です、という言葉が続くのが、聞かなくてもわかるような口調。
「毒草なんかならちょっとは……」
「もう結構」
強い口調に、モリスまでもつい首をすくめた。
夫人は呆れた口調で続ける。
「そういったことには関心がないのに、貧しい少年の話にはのめり込むんですね。実にあなたらしい」
「お……怒ってる?」
「呆れているだけです」
口調のわりには、目つきは穏やかだった。
モリスのような部外者からだと、こういうときの夫人はいつも、怒り呆れながらも、レイモンドのそんな性質を好ましく思っているように見える。
「人助けをしようという、あなたの心がけはよろしいです。だからといって、約束を待っている者を忘れてはいけません。次からはお気をつけ下さい。さあ、この話はこれで終わりにしましょう」
お小言を切り上げたら、あとはいつもと同じように食事を続け、食後のおしゃべりの時間までたっぷり過ごしたあと、レイモンドは馬車で帰っていった。
「明日の朝、迎えにくるよ」
モリスにそう言い残して。
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