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 見覚えのあるそれを指すと、ちょうど全身を貧相な衣装に着替え終わったレイモンドが裏から出てきて、にやにやしながら頷いた。 「ああ、君を騙すために女装したときに使ったやつだな。憶えてたか」 「あっはっは、あれ、あんただったんですかい!」  マドウォーターが手を叩いて笑う。話に聞いていたのだろう。  モリスは怒る気もうせて、長いため息をついた。  そして黙って裏の部屋に、着替えのためレイモンドと入れ替わりで入った。  そうやって二人とも見た目がそれらしい姿になると、レイモンドはモリスに、待ち合わせ場所まで歩いて行こうと言った。 「この恰好で、ですか?」 「この恰好だから、だよ。普段の僕の恰好のままだと見ることのできない、人々の裏の顔というやつが見られるからね」  相変わらず、このお坊ちゃまには、世間の人々が動物園の見世物かなにかのように思えるらしい。  だがまあ、社会勉強をしているとも言える。  それは悪いことじゃないと思うモリスは、しかたなくつきあうしかない。
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