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 待ち合わせ場所には、すでにライアンとビリーが立っていた。  ライアンの親方に3シリング渡し、ビリーが持っていた売り物のクレソンの束を丸ごと買い取ってやると、ようやく植木鉢が盗まれたという現場に案内してもらうことができた。  とにかく彼らは貧しさゆえに、常に稼いでいなければならない立場なのだ。  対価を払わない限り、レイモンドの好奇心のお供をする余暇の時間など持ち合わせていない。  案内されたのは、ビリーの家があるという、ごみごみした街区の一画だった。  もともとはそれなりにちゃんとしていたであろう、三階建てのレンガ造りの建物が何軒も、肩を並べるようにして建っている。  しかし今では壁のレンガは欠けたりひびが入っていてもそのまま放っておかれ、煤で黒く汚れている。  あちこちの窓から突き出した物干し棒には、安物の生地の下着さえもが、恥ずかしげもなくぶら下がっていた。  そしてその合間を縫うように、ひっきりなしに子供の泣き声や誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。  こんな場所に足を踏み入れたのは、モリスもさすがに初めてだった。  今すぐ引き返したい気持ちになってレイモンドに視線を送ったが、こちらは反対に、好奇心で目が爛々と光っている。  モリスは頭を抱えたくなった。  建物の狭い入り口を入り、急で幅のない階段を三階まで上がると、一番奥の部屋が、ビリーの家族全員が住む家だった。
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