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簡単に諦めたのを意外に思いながらモリスも続くと、今度は道路と庭を区切っている鉄の柵に両手をかけ、なかを覗き見ていた。
「なにを見ているんですか」
訊くと、庭の中心あたりを指さした。
しかしそこには、土の地面があるだけだ。
「わかりませんね。どういうことです」
「あそこ。土の色が違っている。それに、小さなかけらがいくつも落ちてないか」
そう言われて注意深く見てみると、たしかにレイモンドの言う通りだった。
白茶けた地面の一部分だけに、茶色い柔らかそうな土が、円に近い形で広がっている。
そしてまわりにちらばっているのは、赤茶色の細かいかけら。
しばらくそれを見つめていると、また、窓の内側に人の気配がした。
レイモンドは無言で建物にまた入ると、さっきのドアを叩きながら、大声で言った。
「僕は警察じゃない、ただ話を聞きたいだけだ。つきあってくれたら、1シリング払うよ!」
すると、ちょっとの間のあと、ドアがそっと開いた。
なかから顔をのぞかせたのは、ライアンよりちょっと年上ぐらいの少女だった。
「なんの話さ」
ぶっきらぼうな口調だったが、レイモンドがにっこり笑ってみせると、すこしだけ赤くなった。
汚いなりをしていても、ハンサムなのはわかるらしい。
「君、クレマチスの鉢植えの行方、知らないかい?」
レイモンドはなにか当てがあるようだった。
しかも、少女にとっては図星だったらしい。
それ以上追及されないように、慌ててドアを閉めようとした。
「君を責めるわけじゃないんだ。ただ、返してくれればいい。約束のお金も払うよ」
レイモンドは言いながら、ドアを閉め切られないように、隙間に靴を挟んだ。
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