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 なりゆきとは言えフラワーショーというものを知ったので、本来花には興味がないはずのレイモンドが、ぜひ会場に見に行こうと言い出した。  正直、モリスにとっては予想通りだった。  そして自分がつきあう流れになることも。  ただ、当日迎えに来た馬車に乗り込むと、見知らぬ老人も乗っていたのは、予想外だった。 「僕のカントリーハウスの庭師、デイヴィス老だ。詳しい人間が一緒にいたほうが楽しいかと思って」 「だからってわざわざ呼び出すなんて、物好きですな、坊ちゃんは」  デイヴィス老は呵々と笑った。  田舎暮らしの人間らしい、筋骨たくましい身体つきと日焼けした肌の、健康の塊のような老人だった。  日照の悪いロンドンの、青白い肌をした人間ばかりを見ているモリスからすると、もうそれだけで眩しく見える。  名前に覚えがあったので記憶をたぐると、ホッブス夫人の夕食で話題に出た人物なのを思い出した。  幼いレイモンドがよく温室に逃げ込んでいたという話のときだ。  馬車に揺られているあいだも、レイモンドの幼い頃の話を沢山してくれた。  どうも、孫娘とレイモンドの仲がよかったらしい。 「お孫さんは、おいでにならなかったんですか」  なんの気なしにモリスが訊くと、馬車のなかは急に静まり返った。 「……ずいぶん昔に、病気で亡くなりましてね。大きくはなれませんでした」  デイヴィス老が悲し気に言う。  レイモンドはなにも言わず、ただ視線を外へ向けた。 「申し訳ありません。知らなくて……」  モリスが謝ると、老はおしとどめるように、両手のひらを向けた。 「気になさらんでください。短い生涯ではありましたが、お屋敷のみんなにも可愛がっていただいて、悪くない人生だったと思ってるんです」  そうは言ってくれたが、瞳に浮かんだ悲哀の色は、そのあとも消えることはなかった。  そしてそれは、レイモンドも同様だった。
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