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やがて馬車は目的地についた。会場はたしかに盛況だ。
華やかに着飾ったご婦人たちに、エスコートする紳士たち。
こんなに園芸趣味の人々が多いとは、モリスにとっては意外だった。
この手の関連業種への投資もいいな、などとついつい商売のことを考えてしまう。
会場の棚には綺麗な布がかけられ、その上には色とりどりの満開の花が並べられていた。
それぞれの鉢には、綺麗な紙が巻きつけられている。
ビリーもなけなしの一張羅を着て、嬉しそうに出迎えてくれた。
育成の良し悪しはモリスにはわからなかったが、めかしこんだご婦人たちのドレスにも負けない、花そのものの艶やかさは充分理解できた。
デイヴィス老はというと、ひとつひとつを丁寧に見て回っていた。
葉の裏を見、土の表面に触れ、さすがに専門家らしい態度だ。
そのうち、それを見ていた若い神父が寄ってきた。
「こんにちは。私はこの会を主催したグレッグ神父と言います。どうやら、専門の知識をお持ちの方のようにお見受けしましたが」
デイヴィス老に話しかける。レイモンドやモリスとも自己紹介する。
「ああ。あっしはこちらのお方のお屋敷で庭師をしとります。その関係で」
「どうでしょう。このあとコンテストがあるのですが、審査員のひとりとして、加わってくれませんか」
「あっしが?」
「実は、専門家が確保できなくて、困ってたんです。なにしろ、有志でやってまして。今いるのは、みなさん趣味の方ばかりなんです。プロのご意見を聴ければありがたい」
「そういうことなら、あっしでよければ」
「ありがとうございます。では後ほど審査が始まる頃に、改めてお声がけします」
「承知しました」
二人で固い握手を交わすと、神父は忙しそうに、また別の人間に挨拶しに行った。
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