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 やがて勤め人たちが会社のビルから吐き出されるころ、ようやく目当ての人間が現れた。  株式仲買人の若者、モリスだ。  いつものように下宿先へと歩いて帰るところだった彼は、見知った馬車が我がもの顔で停まっていることに驚いて足を止めた。  そして、一瞬で状況を見て取ると、他人のふりをして引き返そうとした。 「あ、旦那だ! こっち、こっち!」  しかし目ざとく気づいたライアンが、食べかけていたスコーンを飲み込み、大声で呼んだ。  それを合図に、レイモンドが顔を出す。 「どうしたんですか」  他人のふりは諦め、しかたなく馬車に近づいてから訊くと、肩を竦めてみせた。 「ホッブス夫人に、夕食に呼ばれてね。迎えに来た」  そのこと自体には、あまり驚かなかった。  レイモンドの推薦もあって、あれからあっさりと下宿が決まったホッブス夫人宅だが、なぜかそれ以来レイモンドもやたらと入り浸るようになっていたからだ。 「待っていればいいじゃないですか。なんでわざわざ?」  乗り込みながら言うと、レイモンドの目が泳いだ。まるで叱られた子供のようだ。 「お説教が始まったんで、逃げてきた」  なんと。  そのままだった。
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