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 レイモンドには、まだまだそういう子供っぽいところが残っていた。  裕福な男爵家のひとり息子というだけでなく、赤ん坊の頃は身体が弱かったとかで、ずいぶん甘やかされて育ったらしい。  つまり、あまり打たれ強くないのだ。  もっとも、レイモンドが少年の頃に教育係兼世話役として雇われたというホッブス夫人からすると、そのあたりこそを心配して説教がちになってしまうのだろう。  悪循環と言えば悪循環だが、そこらへんのおかしな関係ぶりが、まるで実の親子のようでもあった。  母親代わりという扱いなだけある。 「そんなわけだから、フォローは頼むよ」 「まったく。私を防壁代わりに使うのはやめてくださいよ」  ぶつぶつ言っているあいだに、当人はさっさとバスケットの中身をすべてライアンに渡して扉を閉めようとした。  そのときだった。  突然、ライアンに駆け寄ってきた者がいた。似たような身なりをした、すこし年下の少年だ。  半べそをかいている。 「ライアン、おいらの鉢植えがなくなっちまったよう!」 「鉢植えがなんだって?」  その恰好にはおよそ似つかわしくない単語に、レイモンドが好奇心いっぱいの目つきで、身を乗り出した。  反対に、モリスは肩を落とす。  どうやら、このまま素直には帰れない気配が、ぷんぷんしてきたからだ。
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