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ショーが開かれるのは貧しい街区からすこし離れたところにある、主任教会の小綺麗な集会施設だという。
周囲は気の利いた商店なども立ち並ぶ、評判のいい地区だ。
そんな場所で開かれたかいもあってか。
昨年は教会関係者や参加者当人といった貧しい者たちだけでなく、中産階級の人間が多く来場し、果ては上流階級の人々まで見に来たほど盛り上がったらしい。
普段は彼らに蔑むような目で見られている街区の人間からすれば、自分の育てたものに、彼らが感心しているだけでも鼻高々だったらしい。
それにたとえ入賞しなくても、ショーの会場の小綺麗な棚に自分の鉢が飾られるというだけでも名誉なことと、参加希望者は去年より増えたのだという。
ライアンに泣きついてきた少年、ビリーも、そのひとりだった。
だが、窓辺に置いて育てていたクレマチスの鉢が、突然なくなってしまったらしい。
「盗まれたんだ!」
泣きじゃくりながらビリーは叫び、それから貰ったスコーンにかぶりついた。
レイモンドの馬車で、ライアンの隣に座って事情を説明していたのだ。
「蕾だってできて、コンテストの頃にはちょうど花が咲いて、きっと優勝だってできた! だから盗まれたんだ! おいらのを、自分のもんのフリして、賞金をせしめようってんだ!」
「でも、参加申し込みのときに、対象の鉢植えには印をつけられると、さっき言ってたね? 盗んだものは、出品できないんじゃないか?」
レイモンドが口を出す。
「あんなの、ちょっと手先が器用なヤツなら、偽物をつくるのなんで簡単でさ、旦那」
ビリーは言い、鼻をすすりながら新しいスコーンに手を伸ばした。
「さてさて。じゃあ、その盗まれた現場ってのを見に行くのはどうだい? モリス」
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