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 夕食の席は、気まずかった。  ホッブス夫人には、当然、遅刻を怒られ、料理はとっくに冷え切っていた。  夫人宅の唯一のメイド、ナンシーは有能だが料理の腕だけはいまいちで、食べ物に張りつめた雰囲気を和らげる効果はまったく期待できない。  その空気に耐えられなくなったのか、レイモンドが突然、ナイフとフォークを皿の上に放り投げるように置いた。  陶器と金属のぶつかる耳障りな音が、心地よいがあまり広くはない食堂に響き渡る。 「だってクレマチスが盗まれたと言うんですよ! 年端もいかない少年が! 気の毒じゃないですか、話を聞いてあげたっていいでしょう」  ホッブス夫人も、ナイフとフォークを置く。  ただし、とても物静かに。  そして、片眉をあげた。 「クレマチスがなんなのかもご存知ないくせに」  その言葉に、不服そうに言い返す。 「当然、知ってますとも」 「じゃあ、どんな花かおっしゃってみて下さい」 「それは……」 「それは?」 「は……花です」  ここでたまらず、モリスはふきだしてしまった。  レイモンドには恨めしげな目で見られ、ホッブス夫人にはジロリと睨まれる。  が、結局、夫人も口元を緩めた。 「叱られるとすぐ温室に隠れるくせに、種類なんか全然覚えてくれないと、庭師のデイヴィス老がしょっちゅう嘆いていたのを思い出します」
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