ニエ

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ニエ

 乾いた破裂音が山間に木霊した。 「え?」  思わず足を止めた。銃声のように聞こえたが、猟師だろうか?だが耳を澄ましてもそれきり何も聞こえない。一発だけだったのでどの方向から聞こえたのかも判然としない。今更ながら友人とけんか別れしたことを後悔し始めた。  二人でキャンプをしようと言うことになったのは一ヶ月前のことだ。どうせなら誰も入ったことのない山奥にしようと候補地を探し、W県までやってきた。恐らく誰かが所有する山なのだろうが、こんなところまでわざわざ見回りにくることもないだろうと勝手に入り込み、見つかったらその時はそのときだと開き直り、俺と友人は適当な場所にテントを張った。  そこで一晩明かし、正午をまわったところでそろそろ帰ることになった。ところが車を停めてある山のふもとへ戻る途中で道に迷った。お前のせいだと責任を押し付け合い、こっちの道が正しいんだと言い争いになった。挙句、それぞれが自分の思う道を進むことになったのだ。  電波も届かないような山奥なのでスマホは役に立たない。例え険悪な空気になっていようが二人ならこれほど心細く感じなかったに違いない。流れ弾に当たりやしないかとびくびくしながら先を急ぐ。  それまで鬱蒼と生い茂っていた木々が徐々にまばらになり、やがて開けた場所に出た。山を下りられたのかと一瞬喜んだが、そこはまだ山間に位置する小さな集落だった。まさかこんなところに人が住んでいるとは思わなかったが、地獄で仏とはこのことだ。腕時計を見れば夕刻を過ぎており、すでにあたりは薄暮に包まれていた。  数件並んだ家はすべて萱葺き屋根だ。そのうちの一軒の戸を叩く。ほどなくして姿を見せた中年の男が俺の姿を見て目を丸めた。それはそうだろう。こんな環境でそうそう客が来るとは思えない。 「すみません。ちょっと道に迷ってしまいまして、麓まで行けるルートって分からないでしょうか?」  こちらを矯めつ眇めつ眺めていた男は、それを聞いた途端に眉根を寄せ、俺の顔に視軸を定めた。 「分かることは分かるけど、今からじゃ危ないよ。日が暮れるまでに麓へは着かないし」 「そのときは、野宿でもします。一応、キャンパーなもので」  俺は背中に背負った道具一式を見せるように体をひねった。 「いや、危ないってのはそれだけじゃないんだ。ちょうど今日が猟の解禁日でね。うちの村は初日に獲物が仕留められないのは縁起が悪いってんで、今日は全員獲物を手にするまで猟から帰らないんだよ。多分まだショウイチの奴が粘ってんじゃないのかな。あいつ、今年が始めての猟だからさ」
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