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夏海。
~・~・~・~
きゅーん・・・くぅーん・・・。
そんな鳴き声にまた起こされた。
ぼんやりとした視界の中、オレンジ色に似た温かい色の塊が見えた。
それは少し動いていて呼吸もしているのか時折生暖かく、生臭い風が吹いてきた。
「・・・ナツ・・・」
ふと口を突いて出てきたその言葉に俺の意識は一気に覚まされた。
俺はベッドの上に飛び起き、ベッドの横に居るゴールデン・レトリバーのナツを確認すると魂でも吐き出すかのような大きな溜め息を吐き出した。
そんな俺にナツは擦り寄って来てくれて俺はナツを抱きしめて『ごめん』と何度も涙声に謝った。
抱き締めたナツは少し痩せているようだった。
ナツのその様子に俺は何日経ったのだろうと不安になり、スマホを手にして画面の起動を試みたが反応がなく、ぎょっとした。
電池切れのスマホはとりあえず充電器に繋ぎ、ふらつく足で部屋を出ようとしたときナツが『わん!』と鳴いて俺の足を止めた。
俺は鳴いたナツを振り返り、ナツの足元にあるそれに気づいて目を丸くした。
「・・・どこから・・・出してきたの?」
俺はそれを拾い上げ、それを少し眺めたあと斜め上の白い天井を見上げて『あ~・・・』と声を漏らした。
拾い上げたそれには懐かしい思い出が色鮮やかに生々しく残されていた。
その懐かしい思い出に俺の鼻の奥はツンとし、喉の奥はチリチリと痛んで俺を戸惑わせた。
俺は駄目だと思いながらもう一度それに目を向けた。
その結果、やはり・・・駄目だった。
俺はそれを胸に抱くようにし、その場に崩れ落ちて嗚咽を漏らしながら泣いた。
そんな俺の横にナツはやって来て擦り寄り、自分も『きゅーん・・・くぅーん・・・』と鳴いていた。
会いたいと思った。
自分から捨てたくせに・・・。
なのに・・・もう一度・・・一目だけでも・・・俺は夏海に会いたいと思った。
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