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~・~・~・~
俺はしばらくの間、そこで泣き続けた。
何が悲しいとか何が辛いとかじゃない。
ただただ夏海に会いたくて俺は泣いていた。
自分から捨てたんだから泣かないと決めていた。
なのに・・・泣いてしまった俺は敗者だ。
俺は涙を拭い、心配そうに見つめてきているナツの頬を撫で『おいで』と言って立ち上がり、それを手にしたままリビングへと向かった。
ナツは大人しく俺のあとを付いてきた。
リビングに置かれたデジタルカレンダー時計は12月22日と言う日付けと今の時刻を表示していてそれに気づいた俺は先ほど以上にぎょっとさせられていた。
発情を起こした日から丸1週間経っていた。
俺は慌ててナツのエサ皿と水皿を確認し、予備に用意した皿・・・と、言うよりたらいとバケツも確認してよたよたと俺の横にやって来て力なく伏せたナツをまた抱きしめた。
「ナツ・・・ずっと・・・俺のそばに居てくれたの?」
エサ皿とたらいの中身はほとんど減っておらず、水皿とバケツの水だけはしっかりと減っていた。
俺はナツを抱きしめたままナツに謝り続けた。
ナツは俺が保護するべきではなかったと改めて感じさせられた。
「ナツ・・・もう大丈夫だから・・・ごはん食べよう? 新しいの用意するね?」
俺は古いエサと水を捨ててエサ皿と水皿の両方を洗い、新しいエサと水を用意してナツに差し出した。
今日はもう『待て』とは言えなかった。
なのにナツはヨダレを垂らしながら待てをしていた。
今まで一度もしなかったくせに・・・。
「・・・よし。食べていいよ」
俺は苦笑しながらそう言ってみた。
するとナツはエサにがっつき、水にもがっついた。
ナツのその様子に俺は一応の安堵を得て溜め息を吐き出し、ソファに落ち着いて背もたれに深く寄り掛かり上を向いて目を閉じた。
数分の間、俺はそうしていた。
ひどく疲れたときに俺が取る行動だ。
この行動を取ると少し疲れが抜ける。
なのにどうしてか今日は疲れが抜けることはなかった。
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