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『きゅーん?』
エサを食べ終えたナツは口の回りを舐めながら俺の元へとやって来て俺の腿の上に顎を乗せ甘えていた。
俺はナツの頭を優しく撫で続け、それに満足したナツは俺から離れるとダイニングテーブルの上に置いていたそれを優しく咥えて戻って来て『これは?』と言うように首を傾げた。
俺は苦笑いしながらそれを受け取り『これな・・・』と言って犬のナツに昔話をはじめた。
「これ・・・こいつ・・・このヘラヘラ笑ってる茶髪のやつ・・・白浜 夏海って言うの。俺の・・・好きだった・・・俺の・・・好きなひと・・・」
俺はそう言ってまた身体が熱くなるのを感じ発情期のぶり返しかと焦りながらも言葉を続けた。
「夏海と俺は幼馴染みで夏海は俺の唯一無二の親友だった。俺さ・・・ずっと夏海のことが好きだったんだ。夏海は馬鹿で要領悪いけど良いやつで人気者だった。俺とは真逆の存在」
俺の記憶に残る夏海はそうだ。
夏海は勉強が苦手だった。
だからテスト前に俺に泣き付いてくるなんてことはしょっちゅうだったし、何かにつけてちょっとしたミスが多くて回りから馬鹿扱いをされることも多々あった。
だけれど夏海はただの馬鹿じゃなかった。
夏海は人一倍・・・いや、少なくとも三倍は努力をしていたし、曲がったことは何一つなかった。
何よりも夏海はあたたかかった。
夏海のそのあたたかさは敵を味方にするほどで俺を溶かすほどだった。
俺は夏海に惹かれた。
向日葵が太陽に憧れるように・・・。
鳥が空に焦がれるように・・・。
当然のように・・・必然的に・・・俺は夏海に惹かれた。
「よく二人で海に行った。学校サボったりして。この写真は高3の夏の。確か・・・野外活動に出た日の。その時にクラスのやつが撮っててなんでか文化祭のときにこっそりこれを売ろうとしてたんだよな・・・」
俺はそう言ってその写真を見つめた。
その写真には談笑しながら砂浜を歩く俺と夏海の姿が写されていて一緒に写り込んだ空も海も綺麗な青をしていた。
なんの話をしていただろう?
なんの話をしていたのかはとんと覚えていない。
だけれど、写真の中の俺と夏海は楽し気で幸せそうだった。
まるで砂浜デートを楽しんでいるカップルのようだ・・・なんて思うとむず痒く苦かった。
『くぅ~?』
ナツの鳴いた声に俺は『う~ん・・・』と返し、その写真を手にソファに寝転がって目を閉じた。
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