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記憶。
~・~・~・~
『真白はどうだった? アレ・・・』
懐かしい記憶が・・・消したい記憶が不意に甦り、懐かしい声に懐かしい名前を呼ばれた俺は胸の内をぎゅっと締め付けられた。
その記憶は俺が学生だった頃のもので自分の第二の性がどの性(α、β、Ω)に当たるのかを聞いたときのものだった。
俺は確か『アレって?』と聞き返した。
『アレ』が何かを知りつつ俺はそう聞き返し、夏の熱い風にムッとしていた気がする。
俺の問い返しの答えはやはり『第二の性』の検査結果のことだった。
その問いに俺は『α』であったことを答え、すぐに『で?』と訊ね返した。
相手の・・・夏海の第二の性が何か気になった。
もしかしたら・・・ひょっとしたら・・・なんてことを思い、望んでいた。
もし、そのもしかしたらやひょっとしたらがあったら・・・番になれると思った。
だけれど、返ってきた答えはやはり、俺の望むものではなかった・・・。
だからこそ俺は俺の本当の気持ちを口にした。
『俺か夏・・・どちらかがΩならよかったのにね?』と・・・。
なのに夏海は『お前がΩとかあり得ないだろ? それに俺とお前、どちらかがΩだったとしてそれがなんになるの?』と言ってきて真夏の眩しい空を見上げていた。
それにも俺はムッとし、もっと切り込んだ。
『番になれるじゃん? もしかしたら運命の番にもなれたかも・・・』
なんて言って・・・。
なのに夏海は『運命とかないでしょ? そんなの・・・』と、言った。
だから俺は自棄になった。
俺の気持ちに気付けと思いながら言葉を紡ぎ、クスクスと笑った。
俺の本心を・・・夏海への気持ちを隠すために俺はいつものようにクスクスと笑い、胸の内では『どうして・・・』と、泣いていた。
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