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はじまり。
『野月さん・・・あなたは後天性Ωです』
高校2年の夏・・・俺はそう診断を下された。
場所は有名大学病院の第4診察室。
夏の眩しい日差しが白のレースカーテンを射抜き、レースカーテン同様に白い壁はその光を跳ね返して診察室全体を明るく照らし、人工の明かりなど意味をなさず邪魔なほどだった。
俺は俺にそう診断を言い渡してきた細身の若い医師に視線を向け直し、まるで余命宣告をしているみたいだ・・・なんて思っていた。
それほどその細身の若い医師の表情は暗く、声音も沈んでいてその余命が明日・・・いや、今日です・・・と、言っているかのように重たかった。
細身の若い医師のその様子を目にした俺はこの人は優し過ぎるが故に本当は医師に向かい人なんだろうなと思いつつもその上でαは優越、Ωは劣等と言う小さい枠に囚われる可哀想な人でもあるんだと小さな溜め息を吐き出した。
細身の若い医師は俺の溜め息を聞いて『すみません・・・』と謝って項垂れたけれど、そう診断を言い渡された当の本人である俺は嬉しさに震えていた。
心の底から望んでいたもの・・・どんなに望んでも手に入らないと思っていたものが手に入ったと思ったからだ。
これで番になれる。
これで俺は夏の・・・。
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