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輪廻Ⅱ『鳩胸』
横浜の川縁にソープランドがある。慣れているとはいえ、裏口から入る時は辺りを窺う。正面から勤め人が歩いて来る時は一旦裏口を通り過ぎて戻って入る。最ベテランの最上恵子はこのソープランドに15年勤めている。それでも世間体に後ろめたさはある。47歳には見えない様にケアをしているが肌そのものが若い時のように張りがない。
「おはようございます」
「恵子さん、おはよう。早速だけどいいかな。若い子」
「いいわよ」
さっと着替えて待合室で待っている若い男に声を掛けた。
「お兄さん、いらっしゃい」
笑顔で呼んだが若い男はきょろきょろしている。もしかして自分だったら不運だと思った。
「お兄さん、お兄さんよ、もう、可愛い顔して」
若い男は仕方なく立ち上がった。
「ほらおいで、お兄さんは出身はどこなの?色白いから東北かしら?」
若い男は下を向いて返事をしない。
「お兄さん、こったらとこ初めてだべ。ねっ、そうだべ」
恵子の訛に反応した。
「失礼ですけど北海道の方ですか?」
「よく分かったね、私なまら標準語のつもりだったんだけど」
「いやすぐに分かりました。僕は帯広の出身で菅原義明と申します。小学生の時に東京に越して来て訛が消えましたけど、お姉さんの言葉聞いて想い出しました」
「あら、近いわね、あたしは白糠町。奇遇だね」
ベッドに腰掛けて故郷の話で盛り上がった。
「さあ、時間がいたましいからサービスするべか。でも故郷近いとなんか恥ずかしいね」
素性を知ると情が湧く。ましてや生まれ故郷が近いとなおさらである。
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