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「そりゃ生れますよ、臨月でしたから。早く迎えに行ってあげなさい」
「今はまずいんですよ。客を送って今夜は遅くなるから明日会社の帰りに迎えに行くと伝えてください」
あの年増はこの青年と果たして苦楽を共にして生きていけるだろうか、金原は要らぬ心配をしてしまった。
「余計なお世話かもしれないが、別れるなら早い方がいい。彼女の立ち直りもそれだけ早くなる」
ドアが開いて明子が顔を出した。
「どうしたの義明?」
「いや何でもない。母の知り合いの人が母に会いに来たんだけ留守だと伝えていたところ」
自分の子を産んだ女を母と嘘を吐いている。金原は目の前の情けない青年に腹が立った。
「もしかしてお母さんの旦那さんですか?」
明子は金原に問い掛けた。
「ええそうです、生まれたんですよ男の子が、それで息子に知らせに来たんですがあまり喜んでもらえなくて困ってしまいました」
金原は乗り掛けた船ととことん付き合うことにした。
「どうして義明、そりゃお母さんが他の人と恋に落ちてお子さんまで産むのは実の息子としては複雑な気持ちになるのも分かるわ。でもお母さんはもう義明から離れた一人の女性よ。それを忘れないで」
「素晴らしい、あなたの言葉に感動しました。どうです、病院までお祝いに来てくれませんか、喜びますよ」
金原が明子を誘った。義明が止める。
「行こう義明、この機会を逃したら後悔すると思う。次は私達の番じゃない、お母さんを祝ってやろうよ」
三人は病院に直行した。
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