8人が本棚に入れています
本棚に追加
金原に続いて病室に入る。恵子は胸が高まっていた。義明が我が子を見てどういうリアクションを取るか恐かった。
「まあ、かわいい」
最初に声を掛けたのは明子だった。事実を知らぬから素直に表現出来る。
「母さんによく似ているね」
義明の第一声である。恵子は頷いた。
「目元はお父さん似だ」
金原が義明を見て言った。
「母さん、退院はいつ?」
「四日後です」
籍はまだ入れていないが近く正式な夫婦となる男から母さんと呼び掛けられると悲しくて涙が溢れた。
「母さん、そんなに泣かないで、高齢出産で頑張ったんだから」
恵子の涙を親指で拭った。
「嬉しいのよ、ねえお母さん。きっと強い子に育つわ。お母さんガンバ」
明子にエールを送られると複雑だった。
「それじゃ行こうか明子、母さん退院日は迎えに来るからね」
義明は明子を連れ立って帰った。
「これでいいの?」
金原が恵子に訊いた。
「どうにもならないでしょ」
人生相談には乗らないことにしている。
「わたし、この子を置いて消えようかしら。わたしがいなければこの子は義明が育ててくれるとも思う」
「消えるってどこに?」
「北海道がいいわ、すすきのでマッサージでもやるわ。知り合いがいるの。ソープランドを辞めたらいつでもおいでって先輩がいて。相手がおじいちゃんになるけれどやることは大して変わらないし私には天職のような気がするの。それに義明も北海道だからいつかはこの子を連れて里帰りするだろうから。会えなくても近くにいればと思うと勇気も出るわ」
言いながら涙を溢した。
最初のコメントを投稿しよう!